□月 ●日  No844 破綻を防ぐための異変


里香女史を中心とした検疫部からのレポート。
天人が起こした天変地異によって幾つかの動物や妖怪がいなくなってしまったというレポートが飛び込んできた。
にわかに信じられない話だが、異変が起こるたびにこうした事態が発生する。
朝倉はこの辺の問題にやたらドライである。 むしろ当然と言った口ぶりだ。


幻想郷は生命の避難所と言う者が居る。 ある意味それは正しくある意味それは間違っている。
幻想郷においても環境の変化と絶滅はかならず起こる。 これは自然の摂理である。
すでに何度か取り上げたとおり、現代にあまねく生態系の裏側には数万倍とも言える生き物が
生まれては消えている。 人類すなわちホモサピエンスでさえ、そこに至るまでに約20種の
人類が生まれ絶滅している。


幻想郷も絶滅という要素を完全に否定しない。
環境は刻一刻と変化するし、カミ同士の関係変化は生き物にとって大変な負担となる。
もちろん外来種流入を防ぐなどのある程度の処置は施されているものの
絶滅そのものを完全に防ぐとなれば厳しいものがある。
それは妖怪とて同じ事である。 幻想郷には沢山の妖怪が流入してくるが
もはや幻想ですらなくなった妖怪たちは消え去る運命にある。


が、朝倉がまさか妖怪がまったく消えてしまうと思っているのかと尋ねてきた。
妖怪には模倣子を維持したまま総体を変化させる能力が備わっているらしい。
いわゆるクラスチェンジみたいなものだと思えばいい。
たとえば中間管理職狐や隙間妖怪もこうしたクラスチェンジの末に今の力を得ているのであって
最初からあのような能力を備えているわけではないという。
そしてクラスチェンジには呼び水が必要になるそうだ。 それが異変というわけである。
すなわち環境変化を伴う異変が妖怪たちを結果的に強化させるというわけだ。


環境変化を嫌った者たちは月へと飛びだったが結局破綻は免れなかった。
隙間妖怪がけしかけた月面戦争によってどうにかこうにか絶滅が避けられたというのだから
なんとも皮肉としか言いようがない。


月面ロケットがヴァンパイアの主人の気まぐれで作られたというのに
それは単なる迷惑ではないのかと朝倉に聞いたら、天変地異もこの天露(ほし)の気まぐれで
本質は何も変らないと言われた。 変化を起こす力を制御するのはまず無理と考えて良いようだ。
色々複雑な心境になった日であった。