□月 ●日  No923 天狗達の新聞


幻想郷でお馴染みの新聞。 天狗たちが勝手に発行する嘘ばかりの新聞である。
しかし本当に嘘かというと実はそうではない。 幻想郷で発生したことをある程度収集して
情報発信源としての意図を加味すれば幻想郷で本当に何が起こっているのか推測できる。


実際に起こったことはこうではないかと鴉天狗に話をしたところ大変驚かれた。 
彼女はあの文々。新聞を発行している天狗の中でも割と高位の天狗である。
一般の天狗と違い、彼女は異変解決に直接参加できる天狗の中でも特別な存在だ。
まさに幻想郷の特殊エージェントである。 
そんな彼女の新聞はタブロイドと呼ぶに相応しい酷い内容ばかりである。
何処まで本当か分からないが、実際に起こった事実をもとにしているのは変わらない。
全くの捏造はないのである。


だが天狗たちがこのような情報を垂れ流すのには理由があるようだ。
重要な点は嘘であること。 高位の鴉天狗に言わせれば、真実は刃になりうると言うのである。
そもそも真実の情報とはどう言ったものだろうか。 
起こったことを伝えようとする限りかならず伝える側の意図が加わってしまう。
これはマスコミュニケーションの宿命である。


昔の新聞はきちんと起こった事実を伝える新聞だったという。
しかし、このような報道形態によって守るべき人間が世間に好奇の目で見られ、最後には命を落としたという
事件が起こったのだという。 顕界でもよくある報道被害というものだろう。
そうなったとき彼女たちはどうしたのだろうか。 天狗たちは自分たちの情報が嘘だらけであることを
アピールするようになった。 多分に嘘を交えた新聞にして人間たちよりむしろ妖怪たちの動向を伝える
新聞へと特化しだしたのである。


噂は所詮噂であり。総じて無価値である。 それが天狗たちの下した結論だったのだろう。


だからこそ天狗たちの新聞が無茶苦茶な扱いを受けていても、彼女たちは気に掛けないのだ。
自分が苦労して作った新聞が掃除用具になったり酷いケースではお尻を拭くためのちり紙として再利用されると
知ったら私なら抗議するだろう。 だが天狗たちは敢えてそんなことをしない。
もしも本当にそんなことをしたらそれこそ大きな被害になることを彼女たちは知っているというわけだ。


閻魔様から楽しいニュースを伝えるべきだと言われた鴉天狗。
だがそれでは価値ある情報を配信することになるのだ。
彼女たちのジレンマは止まらない。
一つ言えるのは彼女たちは彼女たちのポリシーに従って情報を発信しているのだということだ。
ただの道楽とは訳が違うことくらいは理解されたい。