□月 ●日  No1034 優曇華の花 いりません


普段は薬屋で納品する私だが、久々に永遠亭に顔を出したら見たこともない盆栽を発見した。
目下姫様の趣味であろうこの盆栽だが、見たこともない形をしているのが気になった。
まさか地球外の植物を持ち込んでいるのではなかろうか。 検疫部は何をやっているのだろう。


暫く眺めていたら、そのところを肝心の姫様に見つかってしまった。
なんでもこの植物は、権力者が欲しがる優曇華の盆栽という奴らしい。
優曇華と言われるとブレザー兎しか頭に浮かばないのだが、こいつの奪い合いで色々あったという曰く付きの代物だ。
簡単に言えば内戦発生装置と言ったところか。 今では敵国に送りつけるのが正しい使い道のような気がする。
実際の運用方法も私が考えている通りなのだろう。


姫様から永遠が欲しいかと聞かれた。 不老不死になりたくないかと言うのだが、はっきり言うがNOである。
不老不死になったら、一生涯妖怪と縁を切ることができなくなるではないか。
職業選択の自由は期待できないが一生を終わらせる自由くらいは奪わないで戴きたいと思う。


私の答えに姫様は信じられないという表情を浮かべつつも、私がここに派遣されている理由がなんとなく分かったと
言っていた。 どうやら私を間違った方向に評価しているようだが、個人的には月の品物を持って行くことで発生する
面倒事と平穏な生活を両天秤にかけたに過ぎない。
これには姫様も呆れていたようだった。 どうせ欲のない奴と思っているだろう。


さて朝倉に言わせれば優曇華の盆栽とは、月人が用意した戦略兵器だという。
要は出来れば戦闘で穢れを受けるくらいなら相手の自滅を招くアイテムのほうが遙かに有益なのだ。
しかし実際は人類は互いに争ったものの、それを糧に自らを進化させてしまった。
この結果に困った月人は、人類が今の文明になったのは優曇華の盆栽のお陰だと言い出したというのである。


持って帰らなかったと尋ねられたのでありのまま話したら、笑われてしまった。
これでこそチーフだと言われたが、 とりあえず褒め言葉として受け止めることにする。