□月 ●日  No1157 正義の執行


数人の強盗に襲われる一般市民に出くわしたが、幸い通りすがりの妖怪に助けられた。
強盗は相当食い詰めていたのか痩せていてちょっと押せば倒れそうなものだったが
そういう姿に擬態した妖怪だったりする可能性もなきにしもあらずなので
こっちとしても迂闊な行動はできない。


幻想郷にも顕界と同じように犯罪が起き、どうしようもないゲス野郎というのはいる。
顕界と違うのは妖怪が自警団として機能し、そんな人間や低い知能しか持たない妖怪を
割と理性的に私刑にしてしまうシステムが確立されていることだろう。


その強盗に助けに来た(?)妖怪よりスペルカードが提示された。
自分の放つ弾幕を避け切れれば犯罪を見逃すという内容だ。
強盗たちに選択の余地はない。 しかし三次元移動ができない人間が弾幕を避けることは先ず不可能だ。
実質死ねと言われているようなものである。
まるで踊るように弾幕を避けねばならない人間に顔を背けたら襲われた人間の
口元がかすかに微笑んでいて戦慄した。 


幻想郷だろうが顕界だろうが基本的人間の本質は全く変わらない。
それは美しい部分にも醜い部分にも適用される。
顕界からやってきた妖怪は幻想郷の住民が実は顕界の住民と同じように醜いところを見せることに
軽いショックを受ける。 幻想の世界だからと言って人間の理想面が現れていると思っているのなら
それは大きな間違いだ。


たとえば放蕩妖怪に言わせれば醜い感情の一つである他人の不幸を喜ぶ感情というのは
人間の食欲を満たすのと同じような刺激を与えるのだという。
そんな人間の根源に関わる感情が幻想郷に無いなんてあり得ないのだ。
もっとも幻想郷の人間もそれを否定するためにわざわざ嫉妬妖怪を隔離したという歴史がある。
結局そのこと自体が人間の自分勝手さの所作であると嫉妬妖怪も笑っている。
むしろ人間の醜い場面が見えているから妖怪が成り立っていることは理解しないといけないのかも
知れない。


生臭い臭いをその場に残して私はその場を離れることにした。
その場がどうなっているかを見るのはとてもじゃないが耐えられなかった。
とりあえず助けてくれた妖怪には軽く会釈をしたのが精一杯だった。