□月 ●日  No1198 お肉を守れ


幻想郷に肉を運び込む。豚や牛肉など割と一般的な肉がほとんどである。
こうした肉類は冷凍または冷蔵車両で丁寧に運ばれるルールとなっている。
しかし私は緊張感に包まれていた。
最近、肉類を運ぶ列車が何者かに襲撃されているらしいのである。


幻想郷が外の世界すなわち顕界と比較して極端に遅れている産業がある。
それが酪農だ。 特に仏教のルールに縛られていた江戸時代では食肉の発想が
飢饉時の緊急食料以外なかったのも大きい。
おかげで幻想郷での牛乳自給率が極端に低いのが実情である。


このせいで一度幻想郷で一悶着があったというのがノーレッジ女史の話でわかった。
幻想郷の牛といえばほとんど水牛だったりするのだが、牛乳が薬扱いで
購入しようとすると異常なほどに高価だったらしい。
そこに着目したのが夢幻館のエリー女史で、米帝流の酪農を幻想郷に導入
ほとんど独占的に牛乳などを売り出したため、相当もうけたらしい。


それがあまりに阿漕なやりかただったらしく、最終的に紅魔館の面子が
夢幻館に殴り込みを掛けたと言われる。 
結局未遂に終わったが、八雲商事の肉や牛乳の発送はその日を境に激増したとか。


襲撃しているのは夢幻館の連中だろうか。 それなら話が通じるからよいのだが
やってきたのは予想外の存在だった。
一瞬北白河と誤認して警戒しそこねた。 やってきたのはなぜかムラサ船長だった。


仏門に肉は御法度と言いたいらしい。 
こいつに政教分離の概念はないのかとあきれ果てる。 考えてみたら政教分離
発想自体彼女に対しては新しすぎることを思い出した。
やってることはテロ同然である。 時間を稼ぐべく説得するが相手はそのポリシーで
千年近くやってきたのである。 当然私の言い分なんて物は付け焼き刃の知識と
しか思われていない。
こうなったら応援を呼ぶしかない。呼ぶと魂魄が駆けつけてくれた。


一体彼がどう闘うのか注視したら、突然魂魄がムラサ船長口説き始めた。
あまりといえばあまりの展開にムラサ船長がたじたじになっているのが見て取れる。
そういえば彼女は精神攻撃に特に弱いと言われている。
それを補強するための信教とも言える。
ともあれ、魂魄の行動はムラサ船長の顔を真っ赤にさせ逃げさせるには十分だった。
さすが達人は下手に血を流さないということだろう。


船長が逃げて、魂魄にお礼を言ったらがっくり項垂れた面持ちで帰ってしまった。
まさか本気だったのだろうか。
しばらく時間が止まった後、とりあえず周辺の後片付けをやることにした。
何とも言えない気分になった。