□月 ●日  No838 幻想郷の社会問題I 寄生地主制


幻想郷にも多かれ少なかれ社会問題が存在する。
社会制度の一部が未だ残っているために生活している人たちを脅かすケースが多々あるからだ。
その一つが寄生地主制である。 これは地主が農民に土地を貸す代わりに、作物を
「小作料」と呼ばれる地代として徴収する仕組みである。


上白沢の私塾でこの話を聞いたときはにわかに信じられなかった。
というのも幻想郷の農家は割と所得水準が高めだったからである。
もちろん格差はあるのだがそれは極端な矛盾には見えなかった。
これには色々と複雑な事情があるようだ。


明治時代に行われた地租改正という仕組みにより、これまでの年貢から
地価より算出された税金で支払う仕組みに変換した。
しかし、税金を支払いきれない人たちが次から次へと富裕層に土地を譲り渡してしまったのである。
ところが博麗大結界が完全分離すると、土地を手放す人はいなくなってしまった。
一時的にしろ税金のシステムが崩壊し、食料価格が高騰。
土地は取り戻せなかったが小作農たちの生活水準が一挙に回復したからである。


ここまではいい。
しかし完全分離したことで別の問題が出た。
それは外の世界からやってきた人たちに土地を貸すタイプの寄生地主が出現したということだ。
ただし搾取の度合いは顕界に比べればずっと穏やかだ。弱者だと思って強気に出すぎると
実は小作農が妖怪で報復されたとか、顕界の知識で逆にやられてしまったなど
下克上トラブルもまたそれなりに発生しているからである。
顕界の小作人ほどには厳しい生活をしていないが、幻想郷における農民の所得水準からすれば
貧乏というのが正しい。
地主は資金を得てそのまま里で商売をやっているケースも少なくない。
どことは言わないがそうして商売をやっているところもある。余り書きたくないので察して欲しい。


隙間妖怪が顕界における農地改革を断行しないのかと上白沢に尋ねると
今度は妖怪と人間の信頼関係にヒビが入る可能性が高く、幻想郷の崩壊を招くので
手をこまねいているらしい。 今のところ極端な貧農がいないことをいいことに
半ば放置されているのが実情のようだ。
極端な搾取が行われている場合は天狗を用いて宣伝することもあるらしい。
すると世間が狭い幻想郷では自主規制をしないといけなくなるというのが
中間管理職狐の言い分だという。


さて、こうした問題を解決している地域もまた存在している。
それは紅魔館周辺の集落だ。 ここの場合ヴァンパイアの主人が力尽くで土地を取得して
それを農民に解放する農地改革まがいのことが執り行われたらしい。
メイド長に言わせれば、紅魔館の収入確保のために行われた事だというのだが
紅魔館からもたらされる肥料や技術の提供も相まって農民からの支持が強いのはそうした
事情もあるようである。


年末になり、幻想郷もにわかに忙しくなってきたが
こうした細かな問題はそこかしこにあって、今年になっても手を下すことができないようだ。
幻想の世界だからといって社会矛盾まで幻想入りしているのはたまらないが
これが現実である。