□月 ●日  No1411 月面的備え


綿月依姫がまたアホな注文をしてきた。古今東西のレーションを集めて欲しいという。 
レーションとは軍用の携行食のことである。月の軍隊用の携行食と言えば、
空間伝送される形で送られるお弁当のことらしい。
食べたいものをあらかじめ指定しておくと暖かい弁当がやってくる。
まるでドライブスルーのお弁当屋さんみたいである。
敵を知り己を知れば百戦危うからずとはよく言うが、地上の世界の携行食の
試食会はどう考えても単に個人的興味としか思えないのがミソだろう。


それにしてもいざ納品してみると結構種類がある。
今回持って行ったのは有名どころだけだが、割と一般的商社から仕入れることが
できたのは想定外だった。 この手のものにはマニアが居て、結構入手しやすい
ということなのだろう。


自分自身色々もってきてみて種類の多さに驚く。
騎馬民族の携行食みたいに、所謂乾燥肉をお湯で溶いて食べるなんてものもあれば
現代のレトルト技術を駆使した食べ物もあったりしてバリエーションは豊富だ。
それらを兎たちが食べているのだが、どう考えても兵士達には不人気な食べ物が
あっちでは人気があるのは色々面白い物がある。
たとえば、キャラメルなんかがそうで、兵士達には人気が無くても
月兎にとっては単なる甘味料として映るようである。


ここでたまたまやってきた豊姫が今回の納品の意図を説明してくれた。
幻想郷と接続しだした月の都だが、副作用として自然災害が起こりだしたというのである。
原因の一部は豊姫の能力ではないかと思うのだが、それはそそれだ。
そこで、災害食として軍用レーションが注目されたらしい。


月の都で自給すれば良いのではないかと尋ねると、自然災害そのものが想定されてないため
ここにきて被害が出るに当たってヒステリックに対策を取ることになったという。
どれだけの被害なんだと尋ねると、雨漏りがしたとかすきま風がしたとか
顕界の人間からすればささやかな被害なのだが、彼らにとっては十分恐怖なのだろう。
その程度なら直ぐに直せると思うのだが、それすら基本技術が失われていると聞かされて
思わず閉口する。 我々が月の都で商売出来る理由の一部を垣間見た気分だ。


顕界には専用の保存食があると言ったら、目をぱちくりさせて
「そっちでよかったのか」と言ってるがそれはそれだ。
もっとも軍用だけに保存期間も長いことを考えれば、気の長い月の都で
利用するには丁度良いのかも知れない。
かくして試食会は終わったが、感想を聞くと美味しかったねという結論しか帰ってこなかった。
お前らどれを採用するつもりなのだと問いたくなった。