■月 ○日  No428 香霖堂の憂鬱


香霖堂に納品に行ったら、彼の顔色が真っ青になっていた。
すぐに薬屋を呼ぼうとしたら、引き留められて胃薬をくれと言われた。
胃薬を飲ませて落ち着くのを待った後、事情を聞いたら、
赤い服を着た綺麗な淑女が商品を買い求めにきたらしい。
その女性は売り物を操作して、使えると分かると
色々と買い求めてリヤカーに乗せていた。


香霖はその姿を呆然と見ていた。そこには香霖が理解できなかった道具が
彼女の手によって易々と使われていたのだ。
いままで結界の外の道具と言えば香霖がほぼ独占的に扱っていた。
しかしここにきて幻想郷の住人で結界の外の道具を使いこなす人物が現われたのだ。
香霖のショックといったらそれはもう想像に難くない。


もっとも外の世界からきた人間も本当はかなりの数が流入しているのだが
それを商売にしようとする者はごく少数だった。
なぜなら、結界の外の人間は道具の使い方がわかってもそれをどう
応用するかについてはまるで駄目だったからだ。


香霖は、この新しいお客様が商売敵になるのではないのかと心配していた。
知っている人だと言うと根掘り葉掘り色々と質問してきた。
そして彼女がとりあえずは商売をする気がないことを知ると
ようやくほっとした表情になって腰掛けにもたれ掛かった。


香霖に言わせると霊位の高い八百万のカミは外の世界の道具もその智恵で
容易に使い方が分かるに違いないと言っていた。


彼には本当のことは話さないほうがよいと判断した。
本当のことを知ったら彼はひっくり返ってしまいそうだ。


商売をしそうになったら真っ先に教えてくれと言われたので
「その前に企業努力しろよ」とツッコミを入れておいた。