□月 ○日  No539 ある意味カリスマ


妖怪というものは多種多様である。 少女の姿をした者ばかりのイメージの幻想郷だが
中には不定形だったり、異形の姿だったりする。
その中でもぬうりひょんと呼ばれる妖怪は幻想郷では珍しい男性型として知られる。


私はぬうりひょんがかなり苦手である。知性が高く巷の妖怪のリーダー格だったり
交渉屋だったりするからだ。もしかすると喰えなさに関してはかの隙間妖怪すら凌駕する
のではないかとすら思う。
決して腕っ節が強いわけではないが、他人の家に居座って客人達をからかうのを趣味としている。 


先日の列車事故で全体的な納期が遅れたため、ぬうりひょんの下にも配達する羽目になった。
天狗に依頼したら彼女たちも苦手意識を持っているらしく結局私に仕事が振られてしまった。
途中で病み上がりの北白河と合流する。北白河はぬうりひょんと会うのが初めてらしい。 


あちらこちら探し回ってようやく他人の家に上がり込んでお茶をすすっているぬうりひょんを発見。
商品を渡してさっさと帰ろうとした矢先。
北白河の顔を見たぬうりひょんが「自分の経営する遊郭に来て欲しい」とよりにもよって
スカウトを始めてしまった。 私もしばし呆然としたが案の定、北白河のパイプ椅子が
ぬうりひょんにクリーンヒットした。
これはかなりまずい。 ほかでもない妖怪の指導者を殴ってしまったのだ。
立場がかなり悪くなるのは必至である。 


とにかく治療が先決と判断して介抱しようと近くに寄ると、
ぬうりひょんが譫言のように何かを語っている。
「もっと ぶって」確かにそう聞こえた。 
しばらくの沈黙の後、地面に落ちたパイプ椅子の音だけが鳴り響いた。


次の配達先である上白沢にその出来事を話したら、そもそもぬうりひょんとは遊郭通いの
エロジジイ妖怪であるという。その手の趣味を持つ人にとって彼はカリスマらしい。
上白沢もぬうりひょんが苦手だという。 得意の頭突きをかましたら恍惚の表情を浮かべて
しばらく悶えていたそうだ。
北白河に「あなたも一歩間違えるとぬうりひょんになる」と指摘された。
変態妖怪を相手にするのは多いかも知れないが、それはいくらなんでも酷すぎる。


帰社して魂魄にその事を話したら「心の師匠」と言われた。
コメントに困った。