幻想郷で妖怪が人間をおおっぴらに食べなくなってかなり経つ。
もちろん幻想郷の外から迷い込んだ人間が食べられることもあるのだが、その頻度も以前と比べれば
だいぶ減ったと言えるだろう。 これはメトセラ娘の活躍も大きい。
いくら当社が妖怪のための物資を調達しているとは言え、食糧が完全に行き渡るのはかなり難しい。
それでも妖怪たちが不平不満を漏らさないのは、妖怪たちも食糧を手に入れるすべを持っているからだ。
幻想郷では人間も妖怪も対等に接することができる。
それは同時に経済活動も対等であることを意味する。
そのため、妖怪たちは自分たちが大けがをするリスクを背負いながら人間を捕食する必要が
なくなったと言われる。
幻想郷にやってきた妖怪たちの中にも人間を主食とする者は多くいたはずだ。
例えば、一定期間ごとに生け贄を要求する妖怪なんかがそうだろう。
彼らは明治の終わりくらいには殆ど姿を消してしまったらしい。
ところが生け贄を要求する妖怪たちには裏の事情があることを朝倉から聞いた。
それは驚愕すべき内容だった。
そもそも生け贄を要求する妖怪たちは人間を食べる機会を最小限に抑えるために敢えて
定期的に贄を要求するという。
彼らは生きるために人間を食べないといけない。
だが彼ら妖怪たちはその行動が人々に与える影響をよくわかっていた。
それ故にかれらは生け贄を要求することで、それ以上は食べることはないと
宣言していたというのである。
妖怪たちは生け贄の命と引き替えに、その村を全力で守ろうとするという。
彼らは祟り神であり守り神でもあるというわけだ。
彼らは大結界が今の姿になったとき真っ先に幻想郷へとやってきた。
自然と闘う力を人間が身につけつつあったからだ。
かれらは人間を食べなくて済むものならそうしたいと考えていた。
そして幻想郷ならすくなくても飢える心配はなかった。
だからこそ今の幻想郷における平和の礎となり得たわけだ。
人を食べなくなった妖怪たち。
中間管理職狐に今も人間を食べるのかと訪ねたところ、もう食べてないと言われた。
なぜかと尋ねたら、油揚げのほうが美味いからと答えられた。
本当のところはそういうものかも知れないなと思ってしまった。