□月 ●日  No858 白玉楼料理事情


会社に出たら社内が妙に臭う。 一体どこから漂っているのか
臭いの先を目でたどった先には魂魄がいた。
聞けばそれはぬか漬けの臭いなのだという。


ずばり言おううちの部署で一番料理が上手いのは魂魄である。
少し考えればすぐにわかる。 彼はあの白玉楼の主人の胃袋を満たすだけの能力を持つのだ。
私はてっきり、あのお嬢様は味音痴だと思っていたが実際はそうではなく、むしろグルメであるという。
ちなみに料理が上手いのは、朝倉や明羅女史、岡崎あたりとされる。
まあ、順当なところだろう。


忘年会もかねて魂魄の家へパーティをすることになったのだが
彼の家は思った以上にシンプルで小綺麗にまとまっていた。
厨房に行くと、あり得ないほど設備が整っていて驚く。
まず目についたのはステンレス製の大型コンロだ。 高火力に対応した業務用コンロである。
そこに大きな中華鍋やシチュー鍋が並ぶ。
噂には聞いていたが料理マニアというのは本当のようだ。
これらがきちんと掃除されて綺麗になっているのだから恐れ入る。
横にはIHコンロも並ぶ、お湯を素早く沸かすのに有効らしい。


白玉楼ではとにかく素早く、かつ大量に料理を作ることが要求される。
一定の味を得るためには火力がなくてはいけない。
すると選ぶべき調理器具がかなり制限されるらしい。
ご飯はガスで炊いているのだが、火力が大きいと味がかなり変るという事実を
身をもって体験した。


白玉楼流と呼ばれるそのお味は幻想郷に珍しく濃い味で、顕界の料理にとても近い。
実は白玉楼に流れ着く霊魂には料理スキルを持つ者が数多くいて
そこから料理のテクニックを吸収していたのだそうだ。
幻想郷で最初にクリームシチューを食べたのもあの白玉楼のご主人様だというから驚きである。
いつも代わり映えしない冥界で、毎日聞かされる料理の話題を耳にするうちに
本当に食べてみたいという衝動に駆られたという。


白玉楼では生態系制限も、輸入食物制限もない。
顕界の食べ物も容易に手には入る。 生態系の保護はあくまで生きている者を対象にしているので
基準がかなり違ってくるのである。


宴会の帰りがけ浅間や北白河が残り物をパックに詰めて持ち帰ろうとしていた。
たまに先代の時の物量で料理を作るため、おかずをお裾分けしてもらっているらしい。
たまには料理を作れよと言いたいのは私だけではないはずだ。