□月 ●日  No1029 がんばれぼくらの謙虚な勇者様


私は勇者を発見した。 勇気ある者それこそまさに勇者だ。
つまるところ救いようのないアホを発見した。洋風の甲冑に身を包み、不穏当な発言をしている。
自らを謙虚といい、尊大な態度が鼻につく。 まだ自覚的な比那名居の娘の方がマシだ。
皆面白がってそいつの発言を真似しているが、熱しやすく冷めやすい連中だ。多分半年もすれば飽きるだろう。
彼の行動は幻想郷という世界から浮いていたが、幻想の世界の特性を考えれば居てもおかしくない人物だった。


しかし、奴はやってくれた。 いや彼だからこそ自意識過剰な彼だからこそできる画期的な行動をやってのけた。
奴はなんとたまたま自宅の整理に戻ってきた朝倉に色目を使ったのだ。 
なんというチャレンジャー なんという勇者。 もうそれだけでご飯三杯は食べられる。
朝倉が身を固めれば、私の身の危険は確実に半減するだろう。もしかすると寿退社するかも知れない。
そうすれば、私が定年になるまでの間くらいは安全が確保できるだろう。


というわけで、この自称騎士を応援することにしてみた。 
奴のやる狼藉は目を瞑り、いや瞑りきれないので軽く隙間妖怪に通報しつつ我らがアイドル朝倉さんとの恋路を
全力で支援もとい、何が何でも出来婚でもいいから仲良くなるように限界まで近づけてみた。


結局どうなったかって、朝倉が馬鹿は嫌いと言って無視したので私の野望は潰えたかに見えた。
しかし顕界に帰還する回送列車の中で私は奴を発見した。 なんという行動力だろう。 私は感動して
見なかったことにした。 これだけのモチベーションがあれば奇跡が起るかもしれない。


そう考えてはや半月になるが彼はすぐに音信不通になってしまった。 
一説では現実とのギャップに耐えかねて居られなくなったとも言うが
実際のところはわからない。
しかし、社員が遊んでいるネットゲームで彼と全く同じ発言をするプレイヤーがいるという話だ。
もしかすると彼は再び別の幻想へと旅だったのではないだろうか。


朝倉の件はまことに残念だが、私は彼がまだ生きていると信じている。