□月 ●日  No1435 住所不定からの脱出


私の友人でもある妖怪から顕界での住宅取得について相談を受ける。
朝倉の件以降、一応のやり方を理解しているので一応のところどのようにすべきかは
分かっているからだ。


顕界では何と言っても住所が全てである。
住所がなければ最低限のサービスすら受けるのが難しい。
ところが妖怪の大半は当然ながら住所不定だ。


一時期非正規社員の問題が取りだたされたことがあったが住所を確保できるという点において
行政サービスを受けたり、ローンを組んだり出来ることを考えれば有益なシステムだったが
さすがに現代ではそのような手段は執ることは出来ない。
八雲商事ではそうした妖怪のための社宅の他、住宅取得のための融資制度を用意している。
寿命が長い妖怪に合わせてローンは長めに設定されているのが特徴だ。


朝倉も融資制度を一部利用して家を買っている。 もっとも彼女の場合は
土地だけ取得しておきながら、しばらく費用がかからないキャンピングカー暮らしをしていたせいで
色々問題になった。 頭金になるお金も貯まったが。
本人は面倒だからと言っていたが。会社としては色々な手続きの妨げになるので
どうにかして住所を用意する必要があったのである。


ところが妖怪達に自分の家を持たせるのは色々大変である。
なにしろ夜露を凌げれば良い程度にしか考えていない妖怪が多すぎる。
実際問題としてきちんとした家に住んでいる妖怪というのが本来稀なのだ。
だが八雲商事に入って社会生活を送ってもらうとなるとそんなことは言っていられない。


朝倉の場合は色々な工作活動をした。
元々机が散らかっているので不動産のチラシを机の上にそっと置いておいたり
雑誌などを置いて興味を持たせるなどもした。
結局彼女の目を引いたのは自称現人神の家を改装するときに用意した資料色々だった。
科学技術に興味を持っている彼女にとって文明の利器の固まりである現人神の家は
とても魅力的に映ったようだ。


朝倉は一度決めると行動は早い。 あれよあれよという間に新しい家を購入して
引っ越した。 引っ越しを手伝わされたがそれはそれだ。


同僚にも朝倉が使ったときの資料と大体の費用を書いた資料を渡しておいた。
もちろん彼の所得に合わせて丁度良い物にしたわけだけど、やっぱり妖怪の給料は
そこそこ多いのだと痛感して少し鬱になったのは秘密だ。