□月 ●日  No1702 冴月が体験したあの日


あのテロが起きた日、私は単身米帝にいた。
たいした用事ではなかった為、殆ど観光気分だったと思う。
帰国の途につこうとした時、異変は起こった。
飛行機が巨大なビルに突っ込んだという。


飛行機はキャンセルとなり空港は封鎖された。
続いて炭疽菌テロの噂が街を駆け巡った。私は帰るに帰れなくなった。


会社からの入金で食いつなぐ毎日。
いざとなったら自前で飛行すれば良いのだろうが、そんなことをすれば
何日かかるか分からないし、米帝の軍隊にでも見つからない自信はない。
かといって宿代が十分あるとは言い難く、とりあえず暇つぶしを兼ねて
近くの住宅街に足を運ぶと、そこはゴーストタウンとなっていた。
テロを恐れた住民がこの地を離れたのだろう。
私はここの民家の一つに少しの間寝泊まりすることにしてしまった。
警察がやってくるかと思ったが、くるのはトラックに乗った略奪する
チンピラたちだった。


彼らから身を守る手段はライフルに限る。
連中が持っているのはせいぜいハンドガンやショットガンであり、
射程距離はライフルと比較すればさほどでもない。
しかも私は妖怪であり、その射程は最大限となる。
ライフルは弾丸が切れても鈍器となる。
もっとも、私の場合スペルカードという荒技があった。


家に残っていたパソコンで情報を検索する。
言論界はテロの首謀者に対する憎悪で固まっていた。
一方で炭疽菌対策方法についてのマニュアルと一緒に
何故かガイガーカウンターが売れているというニュースも飛び込んでくる。


私は妖怪だから炭疽菌対策もガイガーカウンターもいらないのだが
一応買っておくかと思ってしまうような空気である。


進入しようとする馬鹿なチンピラを簡単に脅しつつ、飛行場が開いたのを
確認して、私はどうにか帰国の途についたが数ヶ月を要した。
その間、勝手に住んでいたとはいえ、その人が家に戻ることはなく、
結局冷蔵庫の中身を処分したり掃除したりしたのは退屈しのぎには
ちょうど良い経験だったと思う。


普通の人なら生きた心地がしないだろうが、私は妖怪だ。
その雰囲気こそ心地よい。