◎月 ×日  No261 大人の戦い


ボスが料亭へ出かけた。
博麗神社の保存のため政治家への根回しをするらしい。
車には実弾が入っているであろういくつかのジュラルミンケースが積み込まれている。
彼女は厳しい顔をしている。
おそらく自分の要求が100%通らないかもしれないという。
すべての事象において、自分の思い通りにいくとは限らないものだ。
ある一点での妥協点、すなわち「落しどころ」を考えて行動することで
勝ちはなくても負けがない状態に持っていくのが大人の戦い方である。


今回の件では風水的に重要地点を確保できればこちらの勝ちであり、敷地のトレードや
塚の建設などを駆使して再開発地域の一部を結界に組み入れる荒業を用いるらしい。


相手を潰すのは、妖怪たちの財力をもってすればさほど難しいことではない。
しかしながら暴力的な行為に打って出るのは政治的プロセスの失敗を意味するし
次からは同じような手段は通用しなくなる。
相手を倒すのではなく「いなす」という発想は妖怪との交渉ごとでも同様に
応用できることである。
「交渉についてのノウハウも勉強しないとね」と朝倉が微笑みながら話かけてきた。
現状で自分が担当している妖怪は目上であり、
相手が自分に合わせていることはよくわかっていた。
「あなたの場合は交渉というより制圧なのでは」とも思ったが口に出すのはやめた。