■月 ○日  No424 幻想郷の自治システム


上白沢がせっせと土地の証文を書いている。
我々の世界で言うところの行政書士みたいなものだ。所謂代筆屋である。
そもそも上白沢の塾はほとんどボランティアで運営されている。
だから彼女が生活するためにはこうした仕事で副収入を得ないといけないのだ。
もちろん勉強の底上げをするため、うちの会社が予算を組んで教材を提供は
しているのだが、それ以上のことは塾内でケリをつけないといけない決まりに
なっている。


幻想郷では基本的に税金が存在しない。
これはすなわち行政サービスも存在しないと言うことである。
自治体を纏める「名主」と呼ばれる人がいるが、彼らもまたボランティアである。
災害発生時には商人たちが炊き出しをすることになっている。
これも行政サービスが浸透していない幻想郷のシステムである。


明治新政府によって一時は大きな政府への移行が始まった幻想郷も
博麗大結界が完全に機能してからは無政府化を恐れ
昔のシステムに戻すというやりかたが採られた。
ただし商業がストップしたりするのを防ぐために常に物資は提供しないと
いけない状態になったのである。


今日は名主さんの家に武器とボートを納入する。
ボートは風水害の時の救助用であるが、武器はそれなりに近代的で
都度使い方と手入れ方法を指導しないといけない。
これは時たま流入する幻想郷の外からきた異邦者の迎撃のためだ。
阿礼乙女も武器の使い方を指導して得た心付けを小遣いにしているそうだ。
ストレス解消のためだけではないのである。


拳銃を簡単に分解する阿礼乙女の姿にもしかして彼女は生まれるところを
間違えたのではないかと思ってしまう。もっとも分解する手際の良さは
彼女の記憶力がなせる業ではあるのだが、複雑な気分にさせてくれるものだ。
幻想郷の世界は助け合いの文化である。 税金を払えば無責任でいられるわけでは
ないのだ。