△月 □日  No455 月の都を覗いてみれば


観測衛星が順調に月を包囲しつつあるらしい。
まさに国を超えた大プロジェクトである。
端からみればただのクレーターでもひとたび幻視カメラを介してみれば
都市群の隅々まで見える。 その気になれば新聞も読めるとはよく言ったものだ。


幻視カメラというのは、光学結界に守られた中を観測するためのものだ。
米帝の補償光学装置と呼ばれる主に索敵の技術を応用したものであるらしい。
補償光学装置は大気の揺らぎをリアルタイムで演算するが幻視カメラは結界を
逆算解析して映像に組み替えるものだと考えればよい。


この技術は実は岡崎のパテントらしい。 普段は社員食堂でノリ弁当しか
頼まない岡崎がハンバーグ定食を頼むなど、妙に羽振りがいいと思っていたら
そんなところから金が入っていたわけだ。
本来は幻想郷を観測するために作ったというカメラがこんなところで使われることに は
岡崎自身も結構びっくりしているようだ。


科学者はと言うと月の建造物の研究に余念がない。
地殻変動がなく、重力もあまりない月ではそれは奇想天外な建物が
建てられているのである。 
うちの会社の施設開発部の人がかなりうらやましがっていた。
永遠亭に採用されている部材の劣化を抑える技術などもあり、
物理的にはむちゃくちゃでもきちんと建つことができるそうだ。
月と交流したら建築士を招いて講義を受けたいと言っていた。


朝倉と里香女史が送られてきた映像を見て嘆息していた。
二人一緒に「かっこいい男がいない」とほざいている。 
北白河のパイプ椅子が 飛ぶまで二人は必死に航空写真とにらめっこしていた。


机の上には月のひとたちが食べるお菓子の試作品が並べられていた。
本当に妖怪たちは本気で月に戦争を仕掛けるのだろうか。 
今一緊迫感がないこの頃である。