□月 ○日  No514 ふたりの巫女


「博麗の巫女が質素な食べ物を食べているのはおかしい。」
自称現人神に会うや開口一番そんな言葉を浴びせかけてきた。
巫女に食事をご馳走してもらったら、雑穀を用いた雑炊だったことに衝撃を
受けたからだという。 自称現人神には粟などと言った雑穀は口に合わなかったのだろう。
博麗大結界を維持する巫女がこんな食べ物を食べていたら体を壊してしまうというのが
彼女の言い分である。


もちろんこれは大きなお世話だ。
雑穀は栄養豊富であり、少なくても白米ご飯よりは体にいいと言える。
よく玄米ご飯や麦を混ぜたご飯がヘルシー料理として食卓に並ぶがそれと同じ理屈だ。
雑穀を食べさせているのはボスの方針でもある。
特に脚気の予防には気を遣っているらしい。 牛乳の飲まず肉をあまり食べない
博麗の巫女に必要な栄養素を補給させるためにも、いろいろな穀物を食べさせて
栄養をつけさせないといけないのだ。
自称現人神はもっと別のものを食べさせればよいのではないかと言うが
物事は単純ではない。


そもそも巫女はあまり肉を口にしないことが知られている。
菜食主義者ではないかと思えるほどである。たまに夜雀のお店で焼き鳥を買い求める
姿を目撃することがあるので全く食べないというわけではないようだ。
だがそれは仕方がない事だと思う。 
幻想郷に住んでいる少女妖怪の姿が目に浮かんでしまうからだ。
彼女たちの肉だと思ってしまうと、途端に食べ物が喉を通らなくなってしまう。
私も肉を食べる頻度が減ってしまった。


幻想郷で仕事をしている人のカウンセリングでも同じような悩みを持つ者がいる。
この感覚はヒステリックに捕鯨反対を叫ぶ欧米人や、犬食の文化を否定する日本人にも
似たものだという。生理的な嫌悪であり理屈でどうこう言える話ではない。
私自身ステーキが一時期食べられなくなってしまったことがあった。
友人と外食しても、一緒に食べている食べ物まで気になってしまい、酷いケースだと
吐き気まで催してしまう。


そんな話を彼女にしたら
「命を頂いていることには何も変わらないのに優劣をつけるのはおかしい」と
言われてしまった。 どうやら伊達に巫女をやっているわけではないということか。
おまけに「単に調理方法を知らないだけではないか」と言う。
自称現人神はいつも居候中のカミ様のためにおつまみを作り続けていたそうで
料理の知識は人並み以上にあるらしい。


結局、「私が博麗の巫女に料理の仕方を教える」と言って自称現人神はこの場を去ってしまった。
博麗の巫女のことだから料理を変わりに作ってくれる便利な人程度にしか
受け取ってくれないのではないかと心配になってしまった。
彼女が博麗の巫女を理解するまでしばし時間がかかると思われる。