□月 ○日  No530 河童達のプレゼント


河童に新年の挨拶をしたらプレゼントをくれるという。
満面の笑顔で「日ごろの感謝をこめて」と言うので、渡された包みを開けたら
なんと墓石のカタログだった。


絶句して暫く硬直していると、河童が「もう年齢だから、私たちが精一杯
墓石をつくるんだ」と言ってきた。 邪気がない分とてつもなく質が悪い。
河童に自分の年齢を伝えて私はまだ死ぬのは早いと言ったら
河童たちはきょとんとした表情をしたあと、「人間をやめたのですね」と
言ってきた。 思わずずっこけてそのまま動けなくなった。


冷静に考えれば河童たちの行動は当然のことである。
幻想郷の住民の平均寿命がとてつもなく低いからだ。
我々の住んでいる幻想郷の外での平均年齢は80代を超えるのに対し、
幻想郷では大分マシになったとはいえ、40歳弱程度なのだ。
これは貧困で苦しんでいる自給自足の国よりも低い水準である。


平均年齢を押し下げているのは感染症の脅威と口減らしによるものだ。
薬屋の出現で感染症による死亡例は減ったが、私たちがもたらす薬品類は
もっぱら妖怪たちのもので、住民にまで気が回っているとはとうてい言い難い。
化学物質の問題があるのでおいそれと輸出できないのも理由である。


河童たちは私がここに墓を作ると思っているらしい。
それはそれで自分がここに受け入れられている証拠でもあるから心遣いは嬉しい。
だがしかし、河童たちが作った墓石の設計図といったら
あちこちにデストラップが張り巡らされたまるでピラミッドとか古墳みたいな
代物なのである。
「この武器で近寄る敵をなぎ倒します」とか「ヴァンパイアに墓荒しされても追い払えます」
とか「合体して自動人形になります」と嬉しそうに説明する河童たち
おおかた人の墓石をテーマに遊んでいるようにしか見えない。
かといって怒るわけにもいかずしばらく思考停止状態になってしまった。


里香女史の姿を見つけて助けを求めたら、図面を一瞥したあと、
「脱出装置がない」と言ってきた。
どうせ死んでも閻魔様のところで強制送還されるから、すぐに死体を射出できる
仕掛けがいるそうだ。 
私は本当にここで骨を埋めるのだろうか? ふとそんなことを考えた寒い夜のことだった。