□月 ○日  No542 十六夜月夜は大忙し


今年最初の十六夜月警報。 列車の運行を中止して社内の専用ドックに待避させる作業で
大わらわとなる日である。
月に引っ張られ張り詰められた結界が緊張を解いて振動する十六夜月。
このとき、結界の潮汐に取り込まれてしまったり、結界の波がレンズの役目を果たして
普段見えない幻想郷の生き物が見えてしまったりする。


朝倉に言わせると昔に比べれば結界の潮汐はだいぶ安定しているのだという。
薬屋が月の追っ手を遮るために、月の影響力にリミッタをかけているからと推測される。


今日は基本的に会社待機である。電話とパソコンの前に釘付けになる。
この日も早速注文が舞い込んできた。電話注文の主は小兎姫である。
頼まれた商品は結界安定を促すスペルカードと補修剤、それらを社用車で運ぶのである。
おいそれと空を飛ぶことができない妖怪たちも車に乗って商品を届けに行く。


現地に到着すると、霊能局の黒服達が何人かでたむろしていた。
商品を引き渡してしばし仕事ぶりを観察する。
土木作業員の人が一生懸命家の塀を壊していた。 まるで工事現場である。
違法建築のため、結界の揺らぎに対する防御がおろそかになっていたと説明を受けた。


こうした結界の揺らぎによる神隠しは列車による人工の神隠しと違いとても危険な代物である。
場所はおろか時間さえも超越してしまうからだ。
過去の記録を紐解くと月にたどり着いてしまったケースやタイムスリップしたケースもあるらしい。
こうなると追跡は殆ど不可能となる。


レンズの効果だろうか、中間管理職狐が結界修復のための儀式をしている場面を見ることができた。
工事現場の人は綺麗な映像だと言っていたが、それはこの世のものとは思えない不思議な
美しさを感じることができた。 霊能局の人たちがお札を指定の位置に置くと
さらにそれはまるでサイケデリックな絵へと変貌し、見る者を楽しませてくれる。
儀式が終わって結界が安定すると彼女の姿は露と消え、あたりは見慣れた風景へと戻るのである。


仕事が終わって霊能局の人と一緒に社内で打ち上げ。
浅間を落とそうとした男数人が圧倒的うわばみの前に撃沈したことを記しておく。