□月 ★日  No593 明羅さんファンクラブ


新卒の社員が入ってきて社内が賑やかになってきた。
ちょうど会社に戻ってきた明羅女史が女の子に囲まれながら苦い顔をしている。
目で助けを求めてきたのでフォローに回る。


明羅女史は男より女に人気が高い。 
長身ですらりとしたボディラインと中性的な顔立ちのためだ。 
また朝倉や冴月と違って荒事が得意というわけではないが、生活に密着した知識量は
かなりのもので、応急処置から介護、料理に至るまでマルチプルと呼ぶにふさわしい
器用さを持っている。
朝倉とは違うベクトルで頼れるお姉さん的な存在である。


なんとかしてくれと言われたので、手段を問わないならと念押しした上で、
明羅女史の隠れた素顔を教えてみることにした。
まず彼女は、クールな外見に似合わずかわいい物が好きである。 
部屋の中にはくまのぬいぐるみが多数置いてあるという話だ。 
明羅女史によれば熊というのは体格的に人間の赤子に近いシルエットを持っているため
キャラクターものとしてはとてもポピュラーな存在だという。
彼女をきちんと観察していれば、そこかしこに熊グッズを見つけ出すことができるだろう。


明羅女史は競馬が好きである。ギャンブルが好きではなく、馬が好きとも言う。
勝ち負けお構いなしに自分の好きな馬の馬券をほんの少しだけ買っている。
当たっても換金せずにその馬券を額に入れている。 
朝倉が後で調べたらみんなで飲みに行けるくらいの額だった
ということでみんなであきれていた。


この辺まで話をしたところで明羅女史の目がかなり怖くなってきた。
事態は解決するどころか、悪化する一方だったからだ。
どうしようかとあたりに目を配っていると、女子社員の手にチラシが握られていることに
気がついた。 そこには明羅女史のファンクラブのご案内と年会費が書いてあった。
会員特典として、ビデオディスクがもらえるらしい。


明羅女史は怒り心頭、早速代表をしているという経理部の男に殴り込みを仕掛けた。
愛想よく応対した男にいきなり鉄拳制裁。 平手うちじゃなくてグーパンチである。
顔面にクリーンヒットして吹っ飛ばされた。
何度も殴るその姿に明羅女史のファンも引いた。
ビデオディスクを押収すると隠し撮りされた明羅女史の映像が延々と映し出されていた。
特に危ない場面もない何も変哲もないビデオだったので個人的にはがっかりした。


朝倉は報告を聞いて、にやにやしながら「気持ちはわかるが盗撮されるのは
たるんでいる証拠」だと言っていた。
その後涙混じりの声になって「私なんか盗撮してくれる奴がいない」と言い出してコメントに窮した。
結局顛末書一枚で済んだらしい。
明羅女史の活躍(?)はその後盗撮男に怒りの制裁と尾びれがついて
結果的に明羅女史の人気は高まる一方だというのは言うまでもない。
もう駄目かもわからない。