□月 ★日  No592 新しい人材をスカウトしようか


ボスがそろそろ月からも人材を募集したいと言い出した。
朝倉が飲んでいたお茶を吹き出した。 銃を掃除していた冴月は手を止めた。
私はというと何が言いたいのかわからないできょとんとしていた。
ボスに言わせれば月の人々と商売をするのなら現地の勝手を知っている者がいないと
いけないと言うのである。 言われてみればその通りではある、


うちの部署では幻想郷の中からも多くの人間が引き抜かれている。
元は妖怪退治を生業としていた人間の末裔が多い幻想郷では、それなりの才能を持っているケースは
少なくない。 きちんと訓練さえすればそれなりの能力を得ることは可能だそうだ。
明羅女史はその中の代表格であるらしい。
もっとも一般の人はその能力を生かすことなく一生を終えることになる。


スペルカードルールが普及して、博麗の巫女たちによる妖怪退治の専門化が進んだ今となっては
妖怪たちと対等に接することができるかが求められている。
月で必要な人材も同様に、気高い気質と言われる月人たちと対等な交渉ができる者が必要らしい。
そのためには相手の価値観と我々の価値観を相互に理解できる者が必要なるという。


私はこの仕事を始めて間もない頃、幻想郷の住民はいずれも妖怪と対等に接することができるほど
屈強な奴らが集まっていると思っていた。 だが現実は違った。
妖怪がいることが当たり前の世の中では対等に接することはむしろ当たり前のことだったわけだ。
鴉天狗にもし気に入らない人間がいたらどうするのかと訪ねたら、「ちょっと待てば老衰で死ぬ」という
ことだった。 あらためて人間と妖怪の発想の差を思い知った。


ボスに言わせればヴァンパイアの主人はある意味月人に近い価値観を持っているという。
永い時を生きるために必要な智恵がそれにあたるらしい。
こうなってくると主人に期待が集まる。
当初から人を見る目は確かであるという評価があるためだ。
そうでなければメイド長とかノーレッジ女史
美鈴女史などの一癖もふた癖もある人材を破綻なく束ねていられるわけがない。


ヴァンパイアの主人の鑑識眼を是非とも新たな人材を発掘してほしいものだ。


変な人ばかりが増えることも考え得られるが、あまり考えないようにしたい。