ノーレッジ女史よりヴァンパイアの主人の健康状態に関する資料を受け取る。
何かと思われるかも知れないが、実は先の月面の案件以来、メイド長と
ヴァンパイアの主人の健康状態をノーレッジ女史に報告させていた。
メイド長は特に問題なかったが、問題はヴァンパイアの主人の方である。
強力な光を浴びて伸びてしまったとあって後遺症が心配された。
実際には後遺症なんてものはなく、数日後には早くも大騒ぎしていたそうだが。
それが何故そうなったのかという話になって、先日とある結論に達した。
ヴァンパイアの主人にとって日の光は致命傷になり得ないというのである。
あくまで苦手なだけであり、日傘さえ差してしまえば問題ない程度の代物なのだ。
この仕組みを解明するにあたって幻想郷における魔術のルールについて
説明しないといけないだろう。
私が言うのも何だが、幻想郷における魔術の基本はハッタリとこじつけである。
こじつけも使いこなせば、謂われとして機能する。
謂われは妖怪たちを縛るものとなり得るのである。
では、ヴァンパイアの主人の場合はどうなのか。
実は彼女のモチーフであるはずの蝙蝠が後天的特性であるらしいのだ。
蝙蝠の持つ吸血の謂われは、博麗大結界が今の姿になる少し前の話なのだという。
冒険家たちがささやかに血を吸う蝙蝠を面白おかしく伝えたのが吸血の理由なのだそうだ。
実際スカーレッド家に関する古文書を紐解くと、彼らは実はまっとうな魔人だったという見方が
一般的である。 しかし、蝙蝠の持つ謂われを手に入れるプロセスでちょっとした弱点もまた
生まれてしまったというのが実際のところではないかというのである。
ここで一つの疑問が残る。
日の光に弱い属性も後天的なものであるなら、なぜ月の民である依姫は日の光を攻撃手段として
選択したかと言うことだ。
相手に致命傷を与えることなく負けを意識させる。その意味で有効だったのだろう。
殺害することなく、相手に敗北を意識させることができれば月人にとって利害が一致するのである。
月面戦争。どうやら私が知らないところで色々な遣り取りがあったことは
間違いない事である。