□月 ●日  No666 場違いな向日葵


仕事から帰って、残務処理をしようと机の上を整理して書類を広げると
横からコーヒーを差し出す女性の手。
北白河も残業しているのかなとその人に視線を動かしたら
赤と白のコントラストが眩しい風見女史だった。
腰が抜けて椅子から転げ落ちて頭を打ち付けたが、恐怖のあまり意識だけははっきりしている。


風見女史といえば、普段はにこにこしていながら
機嫌を損ねたら速攻死ねるくらいの危険人物であると思っている。
実際彼女が発動したカードの流れ弾であの世に行ったもとい行きかけたし、
切り花加工の現場は近寄るな危険そのものであった。


幻想郷の人間がここにいるかどうしても解せなかったので。
おそるおそる尋ねてみるとエーリッヒ博士に用事があると言われた。
ヴィヴィットの完成度を高めるためにかなり前から協力しているのだそうだ。


てっきり科学に興味がある妖怪は朝倉や河童くらいと思っていたので
彼女の行為は意外でしかたなかったのだが、彼女に言わせれば
自分の多様性を増やすために舎密の力を借りるのは決して悪くないという。
ちなみに舎密とは科学のことだ。


古来植物は、様々な生き物と共栄関係を結ぶことで繁栄を続けてきた。
果実も花もすべては共栄関係を構築するために生み出された副産物である。
舎密は共栄関係をつくるのに丁度いいシステムだという。
そして舎密の力を借りれば自分の生存範囲を増やすこともできるという。
現に月の都に彼女の分身を根付かせることに成功しているわけだから
彼女の考え方は間違っていないことは確実だろう。


朝倉の話をすると、朝倉と風見女史では着地点が違うらしい。
朝倉はあくまでこの世の心理を見るためという魔法使いならでは目的があるが
あくまで風見女史は自分とその仲間が栄えるための手段として舎密を利用しているという。


話を聞けば聞くほど聡明さが分かってきてだんだん恐怖感が薄らぐのを感じた。
ちなみにコーヒーをもらった理由を聞いたところ、流れ弾が当たったことを
きちんと覚えてくれていた。これには少し感激した。


その後どうでもよいような話をしていたら珍しく残業中の魂魄が通りかかった。
風見女史の姿を見るとあきれた表情になって「また液体肥料ばかり買ってるのか」とぼやいている。
するとみるみる風見女史の表情がこわばってきた。
「調子に乗って使っていると太る」と言ったところで風見女史の生足による踵落としが
魂魄にクリーンヒットした。 
とりあえず彼女が本当に欲しい者がなんなのかわかった気がした