□月 ★日  No686 場違いな存在


さりげなく寄った神社の屋根に髭面のおっさんが鎮座していた。
「ああ、またカミ様が屋根でくつろいでいるな」ととりあえず挨拶を済ませて神社の境内へ
会社からかかってきた電話でふと我に帰る。
ここって結界の外の世界では。


会社からの問い合わせを済ませて、もう一度屋根の上を見つめると確かに"彼"はいる。
このままだと変質者じゃないかと、境内にいた神主様に苦情を言ったら、
見える奴には見えるが見えない奴には見えないから問題ないと言われた。


このおっさんこそ須佐之男命と呼ばれる偉大なカミなんだそうだ。
もしかして自分も巫女と同じようにカミと交信できるようになったのかと思ったら
割と波長さえ合えば誰でも姿が見えるとのこと。 
良かったような残念なような複雑な気分である。


神主によると実は須佐之男命の伝説がやたらあるのも、彼が割と色々な人に
自分の武勇伝を触れまわっていたかららしい。
そういう話を聞くと何となく親近感がわいてくる。
「自分で何かを切り開こうとする時にちょっとばかり力を貸してくれるだろうから
有り難く借りなさい」と言うのが神主のアドバイスだった。


試しに怖い上司と怖いお客をなんとかしてくださいとお祈りしてみたら
頭の中に「無理wwwwww」という言葉が浮かんだ。
もちろん「w」表記は実際には存在しないのだがその口調を簡単に文字に現したものなのだが。
ちょっと泣きそうになった。


神主様が私のことを見かねたのかなんなのかは知らないが、自分から行動を起こしたら
力を貸してやると伝えてくれた。 要するに人間関係は自分で何とかしろという意味なのだろう。


休み明けに朝倉にその話をしたら、「期待は禁物」と言われた。
誰でも願いは叶えてくれるが、力の行使は微々たるものだということだ。
ただ微々たる力でも機会を与えてくれるという意味では大きな力になりうるという。


何か力でも備わったのかと尋ねたら、力が備わったら前線送りと言われた。
前線と言うのはデスマシン妹君、風見女史、西行寺のお嬢様など特Aクラスの危険妖怪と
日頃から接することを意味する。 要は死ねと言っても過言ではない。


幻想郷の外でも十分な信仰を持っているカミは外の世界でも存在することができる。
中には幻想郷と外の世界を行ったり来たりできるカミも存在し、隙間妖怪すら知ることのできない
バックドアを通ることができるといわれる。
バックドアを利用した例では例の神社のおねえさんが記憶に新しい。
ただ、バックドアに収まらない質量を強引に動かしたため、妖怪の山が一時厳戒態勢になったりはした。


所変わればカミ様も変わるとは思っていたが、結構外の世界と幻想郷をつなぐタイプの
カミがいることに驚いた。