□月 ★日  No685  天の恵み


長雨が止んでお日様が顔を覗かせるころ。
幻想郷の民家のあちらこちらで悲鳴を聞くことができる。
たくさんの虫がいきなり家の中に出現してわっと飛び去るのである。


幻想郷の住民はこれこそ虫妖怪の仕業と考えているようだが実際は違う。 
実はこれシロアリの分家イベント「スウォーム現象」と言う。
一定以上に増えたシロアリが次の王アリ女王アリに羽をつけて飛び立たせ、新天地へと旅立つのである。
知らない人間にとっては迷惑千万なのは幻想郷も外の世界も変わらない。


博麗の巫女や霧雨のご息女のもとには虫妖怪の退治依頼が大量に舞い込んでくる。
しかし、この現象は一過性のものだ。 彼女たちが対応しようと動き出すころには
彼らは姿を消してしまう。 


彼らはどこへ消えたのか、ずっと納得いかなかったがこの日例の神社に納品している時謎が解けた。
検品のため商品の数を数えていたところ、ケロちゃん帽のカミ様が大きな袋を抱えて帰ってきた。
袋の中身を尋ねたら「おやつ」と言う。
頼み込んで中を見てみると、民家で見たあの虫だった。
しかし、羽がもげてアリそのものの姿になっていた。
ケロちゃん帽のカミ様によればシロアリはまさに幻想行きとなった食糧だそうだ。
塩漬けにしたり、炒めてもいいらしい。 


自称現人神は完全に引いているが二人のカミ様はまるでスナック菓子を食べるかのように
適当に手でつかんで食べていた。
ちなみに栄養豊富なため「食べ過ぎると太る」らしい。


続いて虫妖怪のところへ納品。 幸い彼女は無事だった。
依頼を受けた博麗の巫女が急行した時には解決しているのだから当然である。
虫妖怪に言わせれば、シロアリは分家する際に数万の虫を放つのだがそのうちつがいになって
巣をつくるのは1%も満たないらしい。
羽をもった羽アリたちは一定時間がたつと羽がもげてしまう。
墜落してゆくアリたちはさながら栄養をもった恵みとなるのだという。
彼らの尊い犠牲により、虫たちが本格的に活動する夏までの命をつなぐわけだ。


シロアリたちは人間が残した化学物質も食べて、それを栄養に還元して自然に戻す役目を持っていると聞いた。
彼らは発泡スチロールやコンクリート片、薄い金属、さらには農薬すら食べて分解してしまうらしい。
人間が処理しきれなかった廃棄物を代わりに処理して、最後は自ら犠牲になって皆に栄養を運ぶ雨となるのである。
何と報われない話だろうか。
幻想郷の外の世界では害虫扱いであるシロアリであるが、本当は生態系を守るための人柱であると言えるだろう。


なんとなく自然の奥深さを身にしみて感じいる日であった。



ちなみに虫妖怪に博麗の巫女の話をしたらしばらく身を隠すらしい。
去年も蚊にさされたということで危うく退治されかかったそうだ。
いくらなんでもそれはひどい話だ。