□月 □日  No634 野暮な質問


幻想郷では家長制度が残っており、家督を継がせるという考え方がある。
幻想郷では謂われが意識されている世界だけに、妖怪退治の専門家としての家督などが重要視されている。
顕界では消滅したお家というシステム、これが恋愛と結婚を分離させるひとつの要因となっている。


顕界の人間にとって結婚と恋愛が分離されている事実は何とも理解できないことだろう。
愛し合う二人が家督制度の前に引裂かれる場面はしばしば演劇にもなるほどの悲劇性を持つ。
がしかし、このシステムもまた幻想郷における人間と妖怪とのパワーバランスを維持するために必要なことらしい。


例の神社に商品を納品していたらおねえさんからそういう話をされた。
自称現人神に先の話をしたところ、自分は恋愛したいと駄々をこねられたらしい。
昔と今とでは価値観が違うと言ったら、「それでよければ苦労はない」と言われた。
当然、自称現人神も結婚適齢期になればある程度の血筋をもった旦那を迎えなければいけなかったようだ。
しかし、その肝心の相手が残念ながらタイプではなかったというわけである。


自称現人神が幻想郷に行ってまもなく一年が経とうとしている。
おそらく世継ぎ問題も完全に流れたことだろう。
神社存続のためには後継者を育てないといけない。
当然幻想郷の人間からということになるのだが、今いちいい相手が見つからないらしい。


確かに幻想郷の男性は現代の男性とは感じが違う。
特に骨格周りに大きな差がある。 堅いものを食べるから顎ががっちりしている。
妖怪や妖怪との混血がまるで人形のような美しさをしているのとは対称的である。


ふと疑問が浮かんだ。 たしかに幻想郷では謂われの力が強い意味を持つのだが
それ以上に血筋の力もかなりのものではないだろうか、そうなれば現代においてその血筋が相当に
薄まった今、その意味はかつての力を持っていないのではないか。
ならば自称現人神が自由に恋愛をしても別に問題はないのではないか。


奥からケロちゃん帽のカミ様が現れた。閻魔様クラスに迫力がまったくない少女神である。
違う意味で迫力の塊である隙間妖怪を少しは見習って欲し。 いや前言撤回しておこう。
想像したら急に鳥肌が立ってしまった。
そんな私の反応をよそに、カミ様は「自称現人神はそこまで血が薄まっていない」と言われた。


思わずおねえさんに一つ質問をぶつけてみた。
「彼女は一体 バツいくつですか?」
おねえさんはなぜか遠い目をして空を見上げていた。
今思えばよく生還できたものだと思う。