□月 ●日  No887 ディテクティブストーリー Pert1

それは俺にとって最後の事件だった。


歴史を感じさせる古都を抜けたところに俺の事務所はあった。
俺のガキの頃に建ったという建物はタイルが剥がれ、剥き出しになったコンクリート
痛々しい姿を晒していた。
木枯らし吹きすさぶ日だった。
俺はいつものように賭をしていた。胴元は探偵の神様。博徒は俺一人。
もし今日電話が来なかったらこの仕事を辞める。
そんなしがない賭を続けて15年が経過しようとしていた。
俺ももはや若くはない。 俺の友人の大半はすでに妻子持ちだ。
女を紹介されたこともあったが、収入が安定しないことがわかるとすぐにいなくなった。


もし今日電話が来なかったら探偵をやめる。
冷蔵庫の中身はすでに心許ないし、預金通帳も空だ。
今仕事をしなければ命に関わる。 どうだ仕事は来るのか。
10分くらいがとても長く感じられた。 暇なときの10分ほど苦痛なものはない。
が俺は賭に勝ったようだ。 人捜しというショッパイ仕事ではあるが振り込まれた多額の前金で考えが変った。


依頼はコトヒメという女を捜すこと。
モリヤ神社であった殺人事件の重要参考人だということだった。


モリヤ神社の殺人事件。
話は2年前に遡る。
当時、モリヤ神社には高名な巫女が住んでいた。
一説によると彼女は超能力者で、特定地域に風を巻き起こしたり雨を降らせることができたという。
彼女の力を借りようと色々な団体が彼女に近づこうと試みた。その中には民自党の議員もいたと言われている。
まさに彼女は生き神、まさに現人神に相応しい人物だった。
そこで事件が起こった。 彼女に何かをしようとした男達数名が皆殺しにされたのだ。
その容疑者として挙がっていた人物がコトヒメだったのである。


俺は当時何が起こったのかを確かめるため、モリヤ神社へと足を運んだ。
そこには最近立て直されたばかりという神社の美しい姿があった。
しかし肝心の巫女様がおられない。 近所へ聞き込みを行うともう一年以上前から行方知れずなのだという。
近くにいるおばさんはしきりにこう言っていた。
神隠しにあったのだ」と。


2年前の事件 そして巫女様の失踪はなにか関係があることは間違いなかった。
図書館で当時の新聞を調べたところ不思議な記述を発見した。
例の事件の直後神社が忽然と姿を消したのだ。 後に残ったのは敷地だけだったというのである。
今の建物は再建されたものだったようだ。
成る程確かに神隠しと呼ばれるのも分かる気がする。


建造物が丸ごと消失した言われる二年前の事件。
そしてその事件の前にいたであろうコトヒメ。



それは 俺にとって最後の仕事だった。