□月 ●日  No900 常識で考えちゃいけない


最近月面に物を届けるときにちょっとした楽しみを見つけた。
それは月兎たちの噂話に耳を傾けることである。 彼女たちは独自の通信網で地上のラジオ波などを
受信することが出来るらしく、そこで飛び交う情報をネタに遊んでいるのである。
その内容の歪みっぷりがあまりに可笑しいのだ。


さて今日、兎たちが血相を変えて私に尋ねてきた。 地上人が恐ろしいことを企んでいるというのである。
何か重要機密でも受信したのかなにか知らないが、地上人が全く別の方法で月に攻め入ると言うのである。
その内容を聞いたらおおよそこんな話だった。


まずロケット数十機で月を地球に向かって牽引する。
地上に降ろしたら巨大な橋をかけて月の上にある米帝の国旗を外そうという試みである。
地上に降ろした月はモニュメントして地上に置かれるというのである。
とりあえず本気で頭が痛くなった。


そもそも米帝の国旗なんてとっくに外れてしまったような気がするが
そんな些細なことはどうでもいい話だ。
第一月ほどの質量が地上に舞い降りたら、落下の衝撃で地殻広範囲に剥がれ、高温は地球を駆け巡り
地上にいる全ての生き物が絶滅するだろう。


そんな話をしたら、でも関係者のインタビューでは上手くいくと言っていたというので
一体どこからソンな情報を受信したんだと尋ねたら地上のある一点を指さされた。
そこは我が国の近隣、俗に言う将軍様が治めるかの土地であった。
あとちょっとで盛大に吹くところだった。


話を聞きつけたのか綿月姉貴が憮然とした顔でやってきた。
愚かな地上人が裏切り行為をしようとしていると一体何をやっているんだと一通り捲し立てたが
それを無理矢理制止。
彼女に尋ねた。



「地上の科学力でそんなことができると思うか」
「できません」
「それが答えだ」



何か釈然としない表情をしない気持ちはよくわかる。
その語かの国についての説明とここで流れる情報の"楽しみ方"の話をした。
相手のプライドを維持させるというのは難しいが、とりあえず地上から電送したかの国の将軍様
絵を見せたところ全員でコメントに窮したのだった。
一つ言えたのはこんな荒唐無稽な絵が月人にとってはおかしくない映像として映ることだった。
なんと恐ろしい姿だという月兎を見て、大結界の恐ろしさを再認識した。
綿月姉貴だけが納得した表情でうんうん頷いていた。
彼女だけ教養があって助かった。


この調子だと某奇しいUFO番組も本気にしているのではないかと思う。
その辺のところを綿月姉貴に尋ねると、何故機密事項を知っていると言われてそのまま数時間詰問された。
もう嫌だこんな生活。