□月 ●日  No1200 稗田阿求


稗田阿求と言えば幻想郷縁起の著者であり、様々な組織から庇護を受ける特別重要人物である。
うちの会社からも明羅女史が、霊能局からもどっかの職員が張り付いている。
彼女がなぜ重要な存在なのか? それは歴史書を押さえることは妖怪達を押さえることと
同義であるからに他ならない。 


人間の知識という物は儚いもので、死んでしまえば本人が持っている知識、経験は泡と消える。
妖怪達は確かに長い寿命を持つが基本的に社会性に欠けるために知識伝達の媒体としては
不安定だ。 従って人間の知識の伝達は口承または書物と言うことになる。
妖怪達の能力は謂われによってある程度の能力に制約が発生するが、阿礼乙女が弱いという
謂われを延々伝達していけば、強力な妖怪を数百年かけて弱体化することも可能だ。
完全なねつ造は妖怪達が黙っていないが少しづつ変えられると妖怪達も気づかない。
妖怪の能力はカミ様の謂われが変わるのと同様に流動性があるので、いつの間にやら
危険とされたり安全とされたりしてしまう。
よって阿礼乙女は様々な者から狙われる結果となった。


阿礼乙女の邸宅に大量に備えられているブービートラップの類侵入者を防ぐための防衛機構だ。
高い記憶力はトラップの位置を覚えるにも適している。 庭を何気なく歩いていても地雷を踏み抜く心配がない。
では万が一、彼女の身に何かあったらどうだろう。


実はもし彼女が亡くなったとしたら、中有の道に乗り込んでも連れ戻すことになっている。
その前に死神が彼女を発見次第保護してしまう。
死神の小町が言っていたことだからほぼ間違いないだろう。
先々代あたりで事故に逢ったときは死神のネットワークと天狗のネットワークを駆使して
強制送還させたらしい。


阿礼乙女が風邪を引くとそれはもう大騒ぎだ。
お世辞にも身体が強くないため縁起の執筆ペースが落ちてしまう。
そんなとき一体どうしているのか疑問が今日解けた。
口述筆記対応の魔法の筆なるものがあるのだ。考えてみればここは幻想郷である
そんな便利アイテムがあってもおかしくなかった。
ただ、それでも彼女が筆記にこだわるのは何だかんだ言っても書いた方が
自分の書いた文章の全容を理解しやすいからである。


それにしてもこの口述筆記筆、校正チェック機能があって書いた文面を読み上げるのだが
酷い棒読みでしかも間が抜けているため、チェックする前にこみ上げる笑いをこらえる方が
大変という代物で困る。
阿礼乙女が病床以外口述筆記筆を使わないのは案外そっちの理由ではと思えてならない。
個人的にはちょっとシュールな校正機能が気に入っているのだがそれはそれということにしたい。