今まで外の世界の風習を妖怪に説明することを生業としていた私であるが
幻想郷の住民でかつ浦島太郎に説明しないといけない場合一体どうなのだろうか。
浦島太郎。それはすなわち命蓮寺の面子である。
まずはこの連中に目の前に黒い姿をした固形物の説明をしないといけない。
この日に限って顕界に詳しい軍曹や小傘、一輪嬢がたまたまどこかに行っていると来ている。
正座をしながら固形物を凝視し続ける連中。
毒ではないとわかっているもののそれを口に運ぶのはなんか気恥ずかしい。
そもそもこの固形物は彼女から貰ったものではないのだが、
なんとなく甘酸っぱいような気分にもさせられる。
一口頬張って、口いっぱいに甘いのと苦いのが広がる何時もの味なのだが
興味津々の目でさらし者にされていると、まるで女の子が反応を見ているような
気がしてくる。 もちろん気のせいだ。
蝋燭の光に照らされ、時間が流れる。
そしてとうとう、その固形物を連中が口に運んでしばしの間難しい顔をしていた。
今まで感じたことの無い味なのだろう。
大体この連中は砂糖を舐めたときも同様の反応を示していた。
まるで果物のような味だと言っていたのが印象的だ。
黒の固形物もまあ似たようなものである。
面倒なのでお菓子という表現は避け、果物みたいなものと言っておいた。
ムラサ船長が口を開く。
「で、これはどこの木になっているのでしょうか」
しばしの沈黙。
頭の中で本気で固形物がなっている木を検索してしまった。
脂汗がたらたら流れているのを感じる。
さあ、ここからどうやってバレンタインの説明まで持って行くかって。
まるで耐久レースのような緊張感と流れの中私の一日は終わった。
帰社した後、机の上に乗っている義理チョコを見てなんともコメントをし辛くなったのは
言うまでもない。