□月 ●日  No1355 接触を試みるカミ


厄神様 常識にとらわれない色々な意味で迷惑千万な連中ばかりが跋扈する
この土地において随一の常識人として会社でも有名である。
八百万のカミでありながら、八雲商事との関係も深い。
社内のカウンセリングを副業としており人の心に潜む厄を取り払ってくれる。
妖怪との接触で過度のストレスに見舞われるこの八雲商事において
社員のメンタル面でかなりの支えになっていることは間違いないだろう。


ところが彼女が今に至る前には相当の紆余曲折があったらしい。
魂魄の話なのだが、そもそも厄神様は人間と妖怪または八百万のカミとの
隔離論者であった。 人間との共存を図るためには極端に関わらない方が
良いとする考え方である。


自分との接触で厄が移る体験を多くしている彼女にとってそれは
当然の持論であると言える。
人間との接触時も相手に厄が移りにくくするために回転行動を行っている。
回転行動は厄の淀みを予防することが出来る。
丁度かび対策として空気を回転させるのと同じ論理だ。


ところが、そんな彼女に転機が訪れたのは大師様の出現であった。
彼女は人間と妖怪の共存を説いていたのだが、厄神様に言わせれば
それは共存という名の利用だと見抜いていたのである。
事実、大師様は若さを保つために妖怪の存在を守ろうとしていたのだ。


また、厄は肉体の変化が引き起こすとされている。
厄年は、その人の環境の変化や肉体の変化が訪れやすい時期と言われる。
その時期を厄年とすることで注意を喚起するいわば智恵である。
それを真っ向否定するのが大師様や魔法使いたちの若さを保つ術
すなわち捨食の術であった。
厄神様にとっては人間を守るコンセプトを裏切られた形である。


妖怪を利用しようとする人間の出現により厄神様のポジションは
敢えて人間と直接関わる二律背反な性格を帯びるようになった。
実際に接触すれば彼女がきちんとポリシーに基づき人間と極めて友好的な存在である
ことがよく分かる。
しかし、隔離論が通じない相手にはある程度痛い目に遭わせることも是と考えているため
描写する側の人間には禍々しく映るといった案配である。


現代における厄神様は情報化により、敢えて自分のポジションを開示する方向へと
進化している。 人間の文化に対する理解が高いのは、河童との接触により
科学に関する理解度が高いことにも起因する。
故に彼女は人間と妖怪の境界を行き来する八雲商事と深く関わるようになったという。


魂魄の話では大師様復活をかなり早い段階で知ることができたのは当社のお陰と感謝していたとか。
このように妖怪達や八百万のカミなど基本的に幻想郷が一枚岩でないことがよくわかる話である。