□月 ●日  No1776 奴等に定年はない


ちょっとした用事で会社の車で出かけていたのだが、
いきなりヒトがぶつかってきて痛みで蹲っている様に見える。
一体何が起こったのかとっさに観たのはドライブレコーダーだった。
そこですべてが分かってこれからの話になる。


運が悪い奴が居る。
脅せばお金が手に入ると思ったのか、だが自分の職業を違う意味で呪うしかない。
普通の人ならこの人物は「ヒト」であり人身事故をしでかしたと思うだろう。
だが残念なことに自分の乗用車に乗っているドライブレコーダーは特別製である。
ぶつかった相手が人間かどうかも判別できるのだ。


残念なことにこいつは幽霊とかの類である。
顕界であっても幽霊は存在するが、もちろん彼らだって健康的で文化的な生活をしたい。
そして生活のためにはやっぱりお金が必要である。幽霊として生活してもそれは同じ。
こいつがどうやって生計を立てているかは一目瞭然だ。


警察に通報しようとすると止めろと恫喝してくる。
住所がないのだから当たり前だろう。
顕界の法律では被害者は"いない"のだ。
だからもう一個の電話で通報もした。この幽霊をどうするかを相談するためだ。


自分のバックには怖い人がいるんだぞと言っていた。
生前はそう言う人がいたのかもしれない。もはやその人が呼んでやってくるのか
どうぞ呼んでくださいと言いたいが止めた。そんなことをしたら目の前の幽霊に
絶望感だけを与えることになるだろう。


警察に連絡しようとすると一生懸命止めに入る。
電話を奪おうとしているが、実は別の電話が繋がったままだ。
電話の相手からはそっちへ行くと言われる。


ある程度押し問答すること数分。しつこいこともあってつい口を滑らせた。
「お前はもう死んでいる」という事実を。
するとこの幽霊は大泣きして、さっきとは違う態度で接してきた。
朝倉たちが到着して事情を話す。 すべては解決したかの様に思えた。


この話は実は一ヶ月前の話である。
今日、その幽霊からなぜか慰謝料を貰った。うちの会社の関連会社を斡旋して貰ったとか。
お金は受け取れないと言って返そうとしたが、とりあえずお札一枚だけ抜いて
それで十分だと言って返しておいた。


まあ、大変だと思うからな。