□月 ●日  No2033 邂逅


奇跡を呼ぶというまだ幼い巫女が、虚空に向かって会話をしている写真がある。
彼女の名前は「東風谷早苗」 顕界では気象に関する奇跡を度々起こし
国の農政に大きく貢献してきた。 
しかし、彼女は幼すぎた。少なくても海千山千の大人の世界に放り込むには
あまりにも智恵も経験も少なすぎたと言える。


人は大きな心的外傷を負った時、逃げられない虐待などを受けた場合、自分の中に自分を完全に理解する
カミを生み出して自らを慰めようとするものである。
その娘も、そのような人間と思われていた。 幼少から大人に囲まれ、利用されるだけの存在だった。
彼女は人間の欲望に晒された。故に彼女の精神は歪んでしまったと考えた。


彼女は二柱の神様が自分を守ってくれると常々話していた。
多くの大人が彼女の言葉を話半分に聞いていた。
ある精神科の医者は彼女を統合失調症と診断していた。
それだけの要因も十分すぎるほどもっていたからだ。


成長した彼女はやがて二柱の神様のことを話さなくなった。
多くの大人は自我が芽生えて分裂症が治ったのではないかと考えた。
ある男が、彼女を訪ねるまでは。



その男はプロフェッサーと言われていた。
東風谷早苗にしてみれば有象無象の大人の一人であった。
八雲商事という名前の企業から派遣されたというその人物は年齢にそぐわぬ前髪前線の上昇ぶりが
妙に印象深い人物だった。ただ単におでこが広いだけだと知るのはそれから後のことである。
背広に身を包み、丸い眼鏡の逆光が彼の目を隠していた。
渡された、封筒から何枚かのお札が覗かせていた。いつものことだが少々趣が違った。
全てが旧札で統一されたのである。


少ない時間の謁見を済まる。彼女は、3人(?)で寝て考えた神託を述べる。
仕事はそれで充分だった。何も知らない人間はそれだけで有り難がった。
しかしのその人物は違っていた。 周囲をきょろきょろと見回し 一言こういった。


「今日はお前一人と謁見するはずだが、話が違うではないか。」
「いいえ、ここには私一人しかおりませんが。」


彼女の言葉少しだけ上ずった。途中で持ち直しているのは傍目からも解る。


「お前の後ろにいる二人の女は誰だと聞いている。」


その男の発言に 彼女は息を呑んだ。 絶句し、明らかに動揺を隠せずに肩を振るわせていた。
床が濡れた。 気がつけば彼女は大粒の涙を流していた。
男には彼女を気遣うように寄り添う二人の女の姿が見えていた。
一人が男を観察するように睨み付けていた。


男は一瞬視線を逸らした。ただ単純にネクタイピンに仕掛けられたと思われるマイクに
話をしていただけだったようだ。



「ええ、見つけました。彼女は 本物です。」