○月 □日 明羅の日記帳

数ヶ月ぶりに顕界へ行く。目的は、顕界に生きる魔女へ会いに行くためだ。
顕界に生きる魔女は、昔のそれと違い、形を変え、姿を変え、脈々と生きている。
その中でも不思議な魔術を使う魔女へ会いに行くための休暇でも、ある。


いつものように、一人分の朝ご飯を食べる。
いつものように、三面鏡で化粧をして、服装のチェックをする。
私は彼女が不思議でしょうがなかった。
彼女は、鏡といったら、小さな鏡で化粧をする。
職場で化粧直しをする時は、化粧室の大きな鏡をみているのに、ズレた部分だけをなおす。
全体のバランスを見ずになおしているからだ。
よく、朝出勤すると肌荒れからか、はたまた飲み過ぎたのか、よく化粧が荒れている。
たぶん、簡単に済ませてしまったのだろう。
そんな考えをめぐらせていると、時間が近くなったので、そそくさと準備を済ませる。


今日は、一番早い列車で出発する。
電車の中は、退屈。魔女には、今日会うのだけれども、どんな風に変わっているだろうと思うと、
少し楽しみ。 いくつかの電車を乗り換えて、魔女の家に着く。
魔女だからと言っても、山の中に住んでいるわけじゃない。
都会から30分程度の新興住宅街に住んでいる。
私は、魔女の家に来るのも楽しみの一つでもある。
魔女の家は、二世帯一戸建てのいわゆるフツーの家、なのにおもしろい。
魔法の宿っていないが、近い用途のアイテムはいくつかあるし、
魔女のお子さんが成長していく姿も、おもしろい。
呼び鈴を押すと、魔女は玄関まで迎えに来てくれた。


居間で、少しお茶を頂いた。魔女の焼いたクッキーは、特別な材料を使っていないのに美味しかった。
そして、レッスンをはじめる。私は、コロコロの中に入れてきた私の持っている化粧品をすべて出す。
そこから、メイクアップの講習を受けるのだ。
幻想郷でも、メイクアップ教室くらいはあるのだが、スポンサーが付いているがために、どうしても偏。
そして、どう見てもバランスが悪いのに、「いつもより綺麗ですよ」なんて見栄好いた嘘をつく。
そして、メイクアップ教室が終わった後に、化粧品の即売会がはじまる。
私の会社的にも、即効性のある効果的な教室だけれども、私は好きじゃないから、
こうやって顕界に生きる魔女を頼る。
魔女は、私の肌を見てストレス疲れが多少あるものの、きれいな肌だね。という。
お世辞を必要な時しか言わない人だけに、信用が出来る。
今日は、ちょっとした魔術を教えてくれた。
免許証などの写真を撮る時は、白い布を一枚、膝に引く事。白い布がラフ板の代わりになり、美白に見える。
というとても簡単な魔術だった。これは、朝倉にも教えてあげよう。


あと、もう一つ。畳の掃除は、茶殻でする事。
これには正直、驚いた。最近の幻想郷は、科学的なものの流入もあり、
無水エタノールで畳を拭いていた。
ところが、茶殻を巻いて彗で履く。
それだけで良いのだそうだ。畳の掃除には、昔から用いれられていたという。
畳に雑巾がけは、畳を傷つけ易い。
畳の持つ和の心を忘れては、いけない。と、魔女。温故知新を改めて突きつけられた気分になる。
レッスンの後は、ご飯を一緒に作る。
その場で、お料理をしながら、レシピメモを書く。
魔女の作る料理は、決して特別なものじゃないけれど、素材のどこを使えばより美味しく、
また病気などに効きやすいか考えてから造るからだ。
まだまだ足下にも及ばない。
その後は、お茶をしながら、色々な話をした。


時間がたつのは早いもので、帰る時が来てしまった。
魔女に月謝を払うと言うと、魔女は相変わらず要らない。と言う。
私が魔女へ幻想郷でいつも食べているごくごく普通の野菜をダンボール一箱分、
たまに送っているからだった。
魔女からすれば、例え無農薬栽培の野菜でも、ここまで美味しい野菜は手に入らないからだ、なんだそうだ。
確かに幻想郷へ来てからの野菜は、美味しい。ドレッシングをあまりつかわなくなっていた。
気がつけば顕界の高級野菜を食べても感動しなかったのは、そのせいかもしれない。
私が玄関を出ると魔女のお子さんが帰ってきた。また少し大きくなったように思う。
また魔女へ会いに来る楽しみができた。


私は、幻想郷に帰る。私の家は、そこにある。


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