□月 ●日  No1234 顕界への憧れ そして現実


幻想郷の住民が巫女の目を盗んで顕界に旅立ったらしい。
ぶっちゃけ冥界に行くよりも遙かに始末が悪い。
実際幻想郷から顕界に旅立たれるとかなりの確率で助からないからである。


基本うちの会社の人間はあまり幻想郷の外から来たということを強調してはならない。
外の世界の人間が幻想郷に憧れるように、その逆もまた真である。
隣の芝は青いとはよく言ったものだが、外の世界の生活は幻想郷の住人にとっては未知の
領域であるということは理解すべきだ。


そもそもお金が許せば至る所で食料が手に入るという事実があり得ない。
季節、地域関係なく色々なものが好きなときに買えるのはやはり贅沢だ。
特に幻想郷はこの時期野菜が不足する。 漬け物類などを駆使したり
カボチャを食べてビタミンCを補給したりするしかない。
建物に入れば暖房器具がかかっておりまるで春のような暖かさだ。
夜になっても街は明るく、常に開いている店もある。


では幻想郷住民が顕界に出現した場合何が起こるのか?
真っ先に起こるのが交通事故と住居不法侵入である。
はっきり言うが外の世界の人間の方が生き残る可能性はむしろ高い。
これは私の経験則だが、幻想の世界に行き着いたと判断した外の世界の人間は
これまでの知識を総動員して幻想郷に馴染もうとするのである。
知識や教育水準の差というものを考えさせてしまう。


対して幻想郷からやってきた人間は顕界で生きる術を知らない。
戸籍があるわけでもないし、読み書きも満足に出来るわけでもない。
路上生活者になれば良いと言う者もいるが、実際は単純ではない。
段ボールが暖かいとか、新聞紙にくるまるという発想も幻想郷の人間にはない。
トイレの意味も分からず、センサーで自動的に出てくる水に驚いて
それを必死に飲もうと試みる。
たまに優しい人(?)のアドバイスを借りて路上生活者になる幻想郷住民がいるが
それでも彼らが生き残る可能性は極めて低い。
今回行方不明になった人も一週間ほどで捜査打ち切りとなる。


もちろん幻想郷から顕界に来た人間や妖怪はうちの会社にいるが
外の世界の基礎知識を学んでから入るようになっているし、
顕界用の戸籍も同時に登録することになっている。
朝倉が顕界で真っ先に運転免許が取れたのはそのせいなのである。
幻想郷に滞在するにも顕界に滞在するにも知識と支援者が必要だと言うことである。


結局、警察や色々な心当たりを当たっても満足な結果は得られなかったようだ。
残された時間は短い。 顕界に旅立った人が無縁仏にならないことを切に願う。