○月 △日  No397 プロ同士のやりとり


いつものように商品を届けていたら、会社から電話がかかってきた。
この近辺に河童や天狗の洗濯物が飛んできているので拾っておいてほしいと
言う内容だった。 天狗たちにやらせろよと思う。
おおかた仕事をさぼろうとした天狗が、洗濯物を速く乾かすために
扇を使ったのだろう。 過去に数回同じことを目撃しているが
彼女たちに学習能力があるのか甚だ疑問である。


現場に到着したら、どこかからか連絡を受けていたのであろうか
兎たちが衣服を拾っていた。
「ご苦労様 ありがとう」と言おうとしたら、連中が一目散に逃げたではないか。
衣服泥棒である。 妖怪兎とあろう者が食い詰めているのだろうか。


仕方なしに会社に報告すると明羅女史を回収して古着屋へ先回りしろと言われた。
明羅女史は札束が詰まったケースを持っていた。
まさか払うつもりですか?と聞いたら涼しい顔で「偽物よ」と答えた。


古着屋で待ち惚けしていたら案の定衣服をたくさん持った詐欺師兎が
私の姿を見て硬直していた。 しばし沈黙。
何を言い出すかと思ったらやっぱり「無料では返さない」と言われた。
明羅女史は詐欺師兎に偽札を渡した。 あっさり納得するかと思ったら
「精巧につくってあるけど偽物よ、人間には通じても妖怪には通じない」と言われた。
さすがは幻想郷の最古参と感心してしまう。
「人間には通じるでしょ」明羅女史がぼそりと言った。
詐欺師兎の耳がぴくりと動いた。
交渉は成立、なんとか天狗と河童の衣服を返してもらった。


偽札なんか渡して幻想郷の経済を乱すつもりかと明羅女史に聞いたら
あのお札を作ったのは中間管理職狐らしい。
今頃、式が解かれて葉っぱになったお札を見て詐欺師兎が呆然としているだろう。
このお札は"偽物の偽物"だったのだ。
問題にならないかと聞いたら、明羅女史は「お互い素性を知っているプロ同士だから
恨みっこなしなのよ」と笑いながら答えていた。


妖怪ネゴシエーター明羅女史 恐るべし。


余談であるが帰りに香霖堂で残りの衣服を回収した。