□月 ○日  No506 美鈴女史の服装


紅美鈴女史の服装を交換する。 冬場だというのに彼女の衣服は殆ど替わらない。
彼女に言わせれば冬服は動きにくいだけだし、寒さに耐えられるだけの十分な体力も
持ち合わせているので問題が無いという。


彼女の服装は特別あつらえである。 基本的にメイド服を着用する紅魔館にありながら
自分の好きな服装を着ることができる。 このような特別待遇を受けているのは
美鈴女史の他にはノーレッジ女史しかいない。 この隠された力関係を把握しないと
紅魔館でトラブルを起こすことになるだろう。


彼女の靴も特別な設計をしている。オリンピック選手が履く靴のテクノロジー
詰まっている。 軽量で丈夫に作ってあるのだが、彼女の脚力を支える靴のため
消耗はきわめて早い。
半月もすれば摩耗で靴がべこべこになってしまう。
彼女のために靴のサイズを調べる人がいるのだが、希望者多数のため
結構な倍率を勝ち抜かないといけない。 彼女と接すると変な性癖がつくとまで言われる。


彼女の服の注文はとてつもなく細かい。 恐らくヴァンパイアの主人よりも細かいだろう。
すべては彼女のスペックを100%引き出すためである。
袖の接合部の位置が数ミリずれるとそれだけでクレームが発生する。
彼女が怒ったところは見たことがないが、怒らせたら息つく間もなく殺されると
確信している。


彼女にはファンが多く、彼女のいる詰め所にはいくつかの包みが隠されている。
いずれも開封していない。 彼女に頼まれてそうした包みを処分するのも私の仕事だ。
中はドレスやごてごてしたデザインの服装で、確かに着ればかわいいかも知れないが
機能性を重視する彼女にとっては邪魔以外の何者でもないのだろう。
メイド長にあげれば喜ばれるのではないかと言ったら、胸まわりのサイズがあわないらしい。
前は何着かあげていたのだが、メイド長がぶつぶつ言いながら服を焼却炉にぶん投げている
のを目撃してそれ以来、服をあげることは無くなったらしい。


回収した服はどれもぼろぼろである。 あちこちが解れて、穴が開いていた。
そのまま持ち帰って自分の物にしたいのだが、残念ながらこれらの品々は
皆廃棄処分である。 ここ最近、何に使うのか分からないが持ち出すものが増えたので
まるで警備会社にお金を預けるような手続きをしないといけなくなった。
考えていることはみんな同じのようである。