□月 ★日  No561 船便到着


妖怪の山をくり抜いたドックにうちの会社の船が入港したらしい。
幻想郷に物資を運ぶ際、あまりに巨大すぎたり急ぎの荷物でない場合は船で運ぶことになる。
大体半年くらいかけてゆっくりと運ぶ。
とかくスピード重視の世の中にあって、とても気の長い話である。


うちの会社の船もまた、物を運ぶのにとてつもなく時間を掛ける。
わざわざ大西洋から幻想郷にアプローチを仕掛けているからである。
大西洋には有名なバミューダトライアングルがあるためだ。


と、言っても別にバミューダトライアングル神隠しのために最適な環境とは言い難い。
謂れのの力を借りているとも言えるが、霧が多いがレーダーもあるし別に特別な環境ではない。
だがここは常に科学のメスが入るところなのだ。
朝倉に言わせれば煙幕みたいな物だという。


バミューダートライアングルで神隠しに遭うとしたらもっぱら海難事故のためだ。
この地域は海流が早く、一度転覆してしまえば容易に船はバラバラに分解されてしまう。
だか、ここで神隠しにあってももっともらしい科学的根拠があるので、思考バイアスに嵌った
科学者は「ここでは神隠しは起こらない」と認定してくれるのだ。
これほど有り難い話はないだろう。


余談であるが船を神隠しにするノウハウは博麗大結界が今の姿になる時にはすでに
確立されていた技術と言われる。
その能力は当時の巡洋艦神隠しに遭わせるほどで、当時人間の武器に脅威を感じていた妖怪達に
解体研究されていたという文献が残っている。
当時の乗組員は情報収集のため幻想郷に移り住む任務を与えられていたと言われる。
合法的にかつ安全に彼らは幻想郷に入ることに成功したというわけだ。


妖怪の山に入った船の中身は幻想郷で自給が困難な穀物類や、米帝製の家具や調度品の類である。
河童たちの使う大型機材もこれで納入される。 
届いた梱包はただちに開封され中身がチェックされるのである。
うちの会社の人間も、物品をどこに割り当てるのかを決めて梱包一つ一つに伝票を貼り付ける
作業に追われる。


鬼の一人が腰を痛めてそのまま救護室に運ばれる一幕もあったが概ね順調である。
米帝製のノックダウンタイプ家具類は一応ここで仮組を済ませておく。
開封後に傷でもあったら笑えないからである。
今年は紅魔館絡みの荷物が多い。 ヴァンパイアの主人が月に行っている間に
家具類を新調したいらしい。 今に「もったいないおばけが出るな」と、同僚に話したら。
「もったいないおばけ」は緊迫感ゼロの女の子だから意味がないと言われた。
これだから幻想郷は困ったものである。