□月 ●日  No1298 ORIGIN(日記1000日目記念)


全ては需要があるから供給する側が存在する。
それが真理である。


当初、妖怪達の避難所として隔離された幻想郷と呼ばれる土地。
しかしその成り立ちは必ずしも平坦ではなかった。
隔離された土地で起こったこと。 それは物資の枯渇である。
それは想像するより遙かに早く起こった。 
当然、物資の奪い合いによる争いが起こることになる。


妖怪の賢者達は妖怪が生み出す幻想で物資が補完できると思っていた。
だが、実際は先立つものが無ければ補完もままならなかった。
すぐに外の世界から様々な物資を運ぶ必要性に迫られてしまった。


文明の火から妖怪を守る為に隔離された幻想郷。
しかし皮肉なことに妖怪を救ったのはその文明の火だった。
陸上輸送を飛躍的に向上させた陸蒸気。
外の世界と効率的に隔離するために水運を犠牲にした幻想郷にとって
それは福音と言えた。


当時陸蒸気は最先端の技術である。 そのインフラを幻想郷に持ち込むには
費用が掛かりすぎる。 当然、今の国にはそのようなお金は存在しなかった。
そこにお金を支払いたいと申し出た者達がいた。
同じ妖怪でありながら自らのネットワークを活用し、財を成した者達である。
彼らにとって人間を攫い食べてしまう妖怪たちは邪魔以外の何者でもなかった。
幻想郷は彼らにとって便利な隔離施設でしかなかったのである。


かくして現代文明に巧みに適応した妖怪達と幻想郷に住まう妖怪達の利害は一致
奇妙な共生関係が生まれた。 適応した妖怪達は自らを維持する幻想を幻想郷から得つつ
幻想郷を維持するための費用を肩代わりすることになった。
そして、効率よく肩代わりする為に様々な団体が生まれることになったのである。
八雲商事もその一つである。


妖怪と共に彼らの知恵もまた幻想郷に集中していく。
その重要性に気づいたのは人間が宇宙に旅立つ時であった。
そこで人類が見たものは、直ぐに近くに存在するヒト型のなにかであった。
それが何者なのか、当初は宇宙人だと考えられ想像図などが書かれることとなる。
その答えは、幻想郷の中に隠されていた。
妖怪の振りをして幻想郷に隠れた月の賢者が居たのである。


彼らの文明を分析する動きが始まった。 俄に幻想郷は物資を供給する先から
最新技術を得るための巨大な実験場になりつつあった。
ナノテクノロジ 常温核融合 それらは現代では幻想の産物であるが
外の世界で成り立ちうる技術でもあった。


各地で技術の争奪戦が始まることになる。 
幻想郷でロケットが開発されたときは、月面にあるという都目指して多くの船が
便乗しようと試みた。 
その多くは失敗したが、認識宇宙に組み入れられた月の都の技術はいま
確実に外の世界に恩恵をもたらしている。


幻想郷と人間達の関係はこれからも続く。
お互いに影響し合いながら、しかし[彼ら]はそこにいる。