今年もリリーホワイトがやってくる季節がやってきた。
リリーホワイトと言えば春の到来を告げる妖精である。
彼女の姿を目撃することは吉兆とされ、御目出度い存在として認知されている。
彼女の姿を見ると微笑ましい気分になる。 最初だけは。
我々商品を配達するものにとってリリーホワイトは天気の急変を示すとんでもない妖精である。
衛星にも出現時の気候の変化は観測できても出没場所は予測できず、河童の天気予報もこの時ばかりは
満足に当たらない。 空は晴れているのに雨が降ったりする天気雨もこの時期である。
リリーホワイトが通ったあとには幻想郷のみならず顕界でもちょっとした異変に晒される。
まずは強風である。俗に春一番と呼ばれる強風で配達途中で煽られることもしばしばだ。
大きな荷物を持ったまま煽られると落とす危険もある。
紅魔館に大きな荷物を運ぼうとカートを走らせて、荷物をなんとか無事おろして帰ろうと思ったら
カートがその場にない。 風下に視線を動かすと、カートが風にあおられてあらぬ方向へと移動していた。
リリーホワイトはあくまで春到来を告げるトリガーみたいな存在だ。
彼女が来たからと言って、寒さから解放されると思ってはいけない。
むしろ彼女が着た後がとんでもなく寒い。 まだ温まりきっていない空気が強風として
幻想郷中を駆け巡るからだ。
よってリリーホワイトが来たからと言って防寒着をしまうのは愚の骨頂である。
あくまで春の風情を楽しむための妖精と理解すべきだ。
リリーホワイトが観測されると天狗たちの新聞に号外が載る。
農作業の再開と、春商戦のスタートを告げるためである。
八百万のカミも号外を見て、いよいよ体を動かし始める。
それはあたかも幻想郷を癒しているように見えることからヒーリング現象と我々は呼んでいる。
余談だが霧雨店はこの時期ゴムバンドが飛ぶように売れる。
これをスカートに巻きつけて、まくりあがらないようにするためだ。
ミニスカートの鴉天狗や閻魔様が必死にゴムバンドをスカートにつけているのをみると
最初から着るなと思う。
普段はジーンズ姿の里香女史はなぜかこの時期スカートを穿いてくる。
何がしたいか見当がつくので多くは語らない。