□月 ●日  No689 狩られるこっくりさん


出社したらいきなり机の上にろうそくと紙、そして5円玉が置かれていた。
紙には鳥居と50音の文字と数字が書かれていた。
いわゆる「こっくりさん」である。


こっくりさんとは、所謂巫女がやっている降神の術の真似事である。
それゆえ事故も多く、多くの場合こっくりさんのやり方は広まっても
基本的にやめるようにというアナウンスも同時に流れている。
広めているのはこっくりさんに寄生された少年少女と言われているのでたちが悪い。


ボスの話だとうちの部署で式神のコアを集めて欲しいという
技術部の要請があったので手っ取り早く集める手段としてこっくりさんを用いると
いうものであった。なんでも中間管理職狐を量産しようとしているようだ。


中間管理職狐 隙間妖怪の式神。九尾狐をコアにした隙間妖怪のエミュレータと言われている。
エミュレータとは、簡単に言えば力尽くで能力を再現実行することだ。
何故量産する必要があるかというと、最近スペルカードのテスト環境が不足しているという
話があちらこちらで持ち上がっていたためだ。


うちの会社でスペルカードをテストするには疑似環境で走らせるテストと実践テストの
二工程が必要となる。 ところが実践テストが大問題だ。
万が一弾幕が逆流した場合、最悪術者が死に至るケースがある。
そこでより安全なテストのために式神を利用しようという話になったわけだ。


当初は橙を使う予定だったのだが、所詮猫。 気分で動くし動作は不安定
挙げ句脱走されるわ、構造解析されて横流しされるわで結局プロジェクトは頓挫してしまった。
だがスタッフは諦めていなかった。 今度は猫じゃなくてふかふかもふもふを再現しようと
考えたらしい。 いきなりハードルが上がったような気がするのだが気にしない。


今回、中間管理職狐量産計画に予算が下りたのは思った以上に高かったヴィヴィットの完成度に
よるものだった。もう一つ根本的な問題として、完成度が高すぎてスペルカードを使う必然性が
薄まってしまったため、最初からカード利用を考えない設計になっていったことだった。
これではうちの会社としては話が違うといったところか。


危険はないのかとボスに聞いたら絶対大丈夫ということだった。
信じて朝倉と魂魄、浅間という誰が見ても捕獲する前に殺ってしまいそうなメンツで
こっくりさんスタート。
そしていよいよ朝倉に何かが降りてきた。 しかしその後ろにはなぜか死神の小町嬢がいた。
いきなり虫取り網で降りてきた何かを捕獲した。
朝倉が「ちょっといいところだったのに」と文句を言おうとすると。


捕獲したなにかは会社の片隅に設置された「お仕置きボックス」という箱に入っていく。
中からどこかで聞いたことのある声。 マシンガンボイス。 
死神の小町嬢曰く、このマシンガンを喰らったらこっくりさん程度で降りてくる奴は
大半生気を失うんだそうだ。


シーケンスな作業でお仕置きボックスに入っていくこっくりさん
思わず手を合わせたくなった。
朝倉曰く、彼らは元から悪戯するためにやってきたのだからテストが終わったら返してやるのだそうだ。
こっくりさんも大変だなと思う次第である。