□月 ●日  No957 便利な生活をめざして


幻想郷の生活なんて普通に考えれば碌なもんじゃないと思う。
我々の生活は恐ろしく便利で満たされている。
寝ていても自動的に作られるご飯。 自動的に行われている洗濯。 
幻想郷では魔法で幾つかの代替は可能だが、現代科学のノウハウには遠く及ばない。
それはたとえば火の加減である。始めちょろちょろ中ぱっぱと言われていた美味しいお米を炊くコツは
実は一定の火力を維持することが重要だと判ったのは電気炊飯器が生まれた頃と言われる。


幻想郷でどうにか現代に近い生活環境にできないかはずっと懸案であった。
一部電気が通っている妖怪の山ならある程度の生活が保障されるが
街ではそうはいかない。 この制約のため自称現人神の移転先も山と指定されたくらいだ。


この日、朝倉は何故か電気会社に出張していた。
電気釜のファームウェアを貰い受けるためである。 
幻想郷のスポンサーには電気会社もあるらしく、本来だったら門外不出のデータを提供して貰えることに
なっているらしい。


幻想郷で利用できる魔法で代替えするには、炊くためのプログラムを解析、数値化して
スペルカードで利用できるプログラムに変換しないといけない。
持って帰ったプログラムコードを今度は全部プリンターに打ち出して、手書きでチャートを作る。
この部分はうちの会社の技術部で行う。
電気屋のチャートをそのまま使用すればいいのではないかと思うかも知れないがこれだと
コンピューターや中間管理職狐には判っても、スペルカードへ変換するには色々不具合があるらしい。


今度はこれを河童の工房まで持って行って、スペルカードのシステムコードに手書きで直す。
はっきりいって気が遠くなるような作業だ。
私の仕事はチャートが書いてある紙を運ぶこと。 段ボール数箱分もあって糞重いったらありゃしない。


人海戦術で変換が終わるとテスト。
当然変換ミスがあるからまともに炊きあがるはずがない。
ある時は芯だらけだしある時は焦げている。
試食しないかと言われて最初喜び勇んでやったけどもう二度とやりたくない。


なぜ河童がこのテストをやっているかって?
実はこの手のスペルカードは専門の鍋でないと上手くいかないのだ。
熱伝導率の違いでどうしても鍋が違うとまともに炊けない。
つまりスペルカードができれば、自分たちが売っている鍋が売れるのだ。
必死になるわけである。


結局段ボールを運んだ帰りに強制的にご飯を食べさせられた。
捨てたら農家に悪いと言うけど絶対拷問だと思う。
余談だが、おかずとして出された甘い甘い卵焼きはやたら美味しかった。