□月 ●日  No118 甘粕の回顧録8


会社の指示で幻想入り直前のある洋館を調査する。
そこにはヴァンパイアが住んでいると呼ばれている。
400余年間生きてきた偉大なヴァンパイアの姉妹だ。


洋館は信じられないほど整備され豪華絢爛という比喩がまさに似合うものだった。
膨大な予算が投じられた外観とには息を呑むばかりだ。
館に入れば美しいシャンデリアや絨毯が我々を出迎える。
しかし臭いは血の臭いに満ちていた。 
館を清掃する者に尋ねると「食べ残し」とのことだ。
今一要領を得ない答えであったが仕方ないだろうと考える。


これだけの建造物を維持するためには莫大な費用が必要だ。
ヴァンパイアへの畏敬の念が失われて久しいが、それでもなお
この建造物は美しさを保っている。それにはパトロンが居るはずだ。


実は今回の現地調査はこの建造物を幻想郷に送るに当って
どれだけの費用が発生するかを見積もるためのものだった。
依頼主は薔薇十字を名乗っているらしい。 
一説には魔術結社とも言われているそうだが数々の著名人を構成員に持つ
大掛りな組織と言われている。


地下図書館を案内してもらう。
焚書を免れた様々な魔術書や歴史書が大切に保管されている。
ここだけで莫大な資産価値を持っていることは間違いない。
これらの書物を確実に保存し続けるには、本を維持するための魔力を
引き出しやすいゲンソウキョウが最適であるというのが結論だった。


図書館を管理するという魔術師に会った。
ここの本を読んでいるだけで幸せという知識の虫だった。
いろいろな話を聞かせてもらったが、やはり興味深いのは
魔術にはお金が掛かるということだろう。
骨董品の魔術道具や材料は入手だけでかなりの費用が掛かる。
ここはその点金の心配も資料の心配もしなくてよい。
ここの設備があれば月の都へ飛びだつことだって出来るというのが
魔術師の話だった。


この館は近い将来ゲンソウキョウへと旅立つことだろう。
それが何を生み出すのかは分からないが、ゲンソウキョウをかきまぜる
存在になることは確かだ。
私はきっとそれを見守ることは出来ないが、それは後輩達の
楽しみにすれば良いだろう。