□月 ●日  No695 戦友と書いて「とも」と呼べ


兎たちが帰還するというのでお見送り。


今日は危なかった。浅間が月の建造物のことを葬式の仏壇みたいだと言って
周囲の月人とともに場が凍り付いた。
月人に死の話題はタブーである。 下手すれば外交問題になりかねない
だが、幸運なことに目の前にいたのは月の門番(姉)のほうだった。
面白い冗談を言う人だと喜んでいる。
この反応に私と月人とで乾いた笑いが広がった。
きっと彼らとは仲良くできるに違いない。


この門番かつては薬屋と知り合いだったとかで、我々への態度も
薬屋と知り合いなら仕方がないとある程度大目に見てもらっているようである。
幸い月人はノリがいいので、多少の冗談は受け入れてくれる。
むしろノリを阻害するのをいやがる特徴もある。
いずれにせよ幻想郷の住人よりもっとも理屈が通る奴らなので安心だ。


だが彼女の答えはちょっと予想を超えていた。
事実葬式の祭壇は月の都を模して作られているというのである。
それは閻魔大王の屋敷にも似ているものでもある。
建築様態が近いというのはすなわち閻魔大王も冥界の住人も月人も根っこが近いという
ことだ。 それぞれの屋敷は作りが似ているので当然とも言えるわけだ。


これには周囲もどう反応していいか凄く困った。
気持ちは分かる。いきなり梯子をもってかれたような雰囲気だ。
兵隊の一人にいつもこうなのかと小声で聞いたら、くどくどと愚痴を聞かされた。
その内容は驚くほど私が置かれている状況に似ていて興味深い。
たちまち意気投合してプライベートの連絡先も交換した。
どうせエイリアンだろうが幻想郷の妖怪と交流しているのと大きく変らない。


一方浅間は姉と名乗る女性の蘊蓄を相づちを打ちながら聞いていた。
気がつけば予定の帰還時間を過ぎていた。
満月の時に帰還しないと力尽くで結界を突破しなくてはいけなくなる。
たちまちてんやわんやの大騒ぎになった。
土産物を先に月に転送して順次月人たちを転送する。
最後は門番姉のおしりが結界に引っかかったのを無理矢理押し込む場面もあった。
浅間のヤクザキックでなんとか事なきをえた。


余談であるが今後月人の兵隊を「同志」と呼ぶことにする。
異論は認めない。