□月 ●日  No698 洗面台の真実


自称現人神がまた我が儘を言って困る。
どうしても朝、頭を洗いたいのでシャワー付きの洗面化粧台が欲しいというのだ。
もちろんそんな現役の商品が幻想入りしているわけがない。無理難題もいいところだ。


もっとも私はこの件に関して割と甘く見ていた。
ボウルの焼き物は河童達や焼き物の窯元たちに任せれば容易にできるだろうと
思っていたからだ。
しかし物事はあまり単純ではなかった。


河童達に頼んで一から作ってもらうことも考えられるがそうなると排水周りに問題が起こる。
ボウルを作って単に穴を開けてもらうという単純なものではないのだ。
排水金具をしまうためのくぼみを作りながら焼く必要がある。
また水が溢れないようにオーバーフロー対策の穴を開けないといけない。
しかもそれが一定の場所へ流れるように配慮しないといけない。


こうした複雑な焼き物は通常、縦に二つ分かれた状態で作ってそれを接着することで
製造される。ところが幻想郷にそんな焼き物を接着するような強力な接着剤が
入手することが難しいときている
しかも通常の陶芸の世界でこの焼き方ができるようになったのは実は明治以降の話だという。
つまり幻想郷の科学水準ではきわめて困難だと言うことだ。
期限ばかりが近づく中八方塞がりになってしまった。


洗面台の事ばかり考えながら香霖堂で納品していたらどうしようもないところで
ケアレスミスを連発してしまった。 
香霖にらしくないと言われる始末だ。 たまらない。
駄目もとで相談してみた。


香霖堂に実物があった。 一瞬目が点になった。
私は代用品のことばかり考えていてまさか幻想郷にシャワー洗面台があるなんて
思ってもいなかったから、あまりといえばあまりの光景に唖然とするしかなかった。
ふたを開けて製造元を調べてみる。
なんとそこには自動車メーカーの名前が書いてあった。
もっと目が点になった。
振り替え処理を駆使してどうにか自称現人神のところへ納品した。 奇跡みたいだ。


岡崎の話によると、実はシャワー洗面化粧台を最初に作ったのは
その車メーカーだったのである。 我々の会社でも二足歩行ロボットやアームスーツなどの
製造開発で取引先になっている皆が知っているメーカーである。
ある陶器メーカーのアイデアを元に僅か一週間で作ってしまった曰く付きだったらしい。


今でこそ水道用品メーカーが作るシャワー洗面化粧台だがまさかそんなものがあったとは
まだまだ自分の知らない商品があるものだと驚きと勉強になった日であった。