幻想郷の住民にとってとてもポピュラーな飲み物がある。
それが紅茶だ。 驚くべき事にこの飲み物は日本文化を色濃く残すはずの幻想郷で
恐るべき普及率を誇っている。
阿礼乙女でさえ、急須に紅茶の葉を淹れるのだから恐れ入る。
紅茶の話をすると途端に多弁になるのが魔法使い達である。
ノーレッジ女史も朝倉も、人形遣いのアリス、そしてエレン女史、皆が紅茶の淹れ方に対して
こだわりを持っている。 あのメイド長を凌ぐほどに。
何しろ彼女たちは紅茶を飲むためだけに専用の魔法まで開発しているのである。
気圧変化による沸騰点の違いを埋める魔法。 茶の香気を引き出すために水の温度を維持するための魔法。
さらに硬水や軟水を作るための魔法。 とにかくこれでもかとばかりに紅茶専用に開発された
魔法の数々を見ることが出来る。 ここまで来ると凄いを通り越す。
試しに朝倉が淹れた紅茶を戴いたら、何か次元が違う味になっていた。
ヴィヴィットでさえこの味は幾らやっても再現できなかった。
それもそのはず、実は幻想郷に紅茶を急速に普及させた立役者が魔法使いたちだったらしい。
紅茶の話をするためにはまず魔法使いの歴史を紐解かないといけない。
そもそも魔法使いは基本は植物学を基準とした薬学研究者が転じた存在だったという。
ハーブによるリラクゼーション効果、ラベンダーなどを用いた防虫効果は
当時の一神教宗教に染まりきった人々に魔法として映ったのである。
ゆえに魔法使いは忌避の対象とされ、最後には魔女狩りという狂気に至った。
博麗大結界形成時、当時の魔女の多くが幻想郷へと亡命を図ったのは言うまでもない。
そのとき沢山のハーブやその苗を幻想郷へと持ち込んだことから幻想郷に紅茶を作るための
素地が生まれたと言われる。
現代においても人力で行い非常に手間が掛かるお茶の葉の仕分作業も魔法を用いれば
容易に行われる。 そのため、幻想郷における紅茶の自給率はほぼ100%を優に超える。
人形遣いのアリスは、人形にお茶の葉を選定させている。 それがまさに職人の仕事なのだ。
余った紅茶は市場に流通、そのまま魔法使い達の収入となるので多くの魔法使いが紅茶を
お店で代行販売させている。 香霖堂でさえ紅茶が販売されているのはそのためだ。
朝倉の紅茶が再現不可能なくらい美味い理由も、買ってきた紅茶の葉を
魔法で一度仕分しているからのようだ。 結果買ってきたはずの紅茶の葉はわずか1/4になる。
勿体ないといったらありゃしない。
余談であるが、紅魔館にお茶の葉を納入するときにはノーレッジ女史のところへ
一度納品する。 自らヴァンパイアの姉妹にお茶を出さないのかと尋ねたら
お茶を淹れるのはメイド長の仕事だと言われた。
魔法使いの淹れるお茶。
幻想郷を訪れるチャンスがあれば一度味わうのもいいかもしれない。
命がけで。