□月 ●日  No776 さとりの天敵


最近地下に納品へ出ることが増えてきた。
地霊殿の主人にまともに接触できるので便利と思われているようだ。
みんな地霊殿には基本的に行きたくないらしい。
特に嫌がっているのは魂魄と朝倉である。 理由は分かるような気がする。


よく心を読まれて平気でいられるのは凄いと言われるが
私はどうせみんなの心を読んでも平静で居られるなら、別にどうって事がないと思う。
私はこの問題を信用の問題と考えている。
最初から相手を騙そうとか、相手を信用していないのなら心を読まれるのはとても
不快に感じると思うのだ。


隙間妖怪が地霊殿の主人を大の苦手としているのもよくわかる。
いくら精神遮蔽をしようとしても精神遮蔽をしている事実を読まれるのだから世話がない。
考えていることがわからないことを自分のアドバンテージにしている妖怪にとっては
たまらないし、怨霊のように自分を棚に上げて全てを周囲の環境にしているような奴に
とっては自分を見透かされてしまうのは耐え難いことだろう。


さてこの地霊殿の主人も苦手とする人がいるそうだ。
その人物はずばり姫ちゃんこと閻魔様だそうだ。
うちの会社に出入りしていると答えたら目をぱちくりしていた。
明らかに「何故だ」という目である。


理由はなんとなく理解できる。 彼女もまた、相手の考えていることを見透かすことができる。
ある種地霊殿の主人と同じようなことができるからだ。
ただし彼女の場合は、多数の人間と接触しているが故の統計学的経験値が成せる業である。
つまり、地霊殿の主人も自分の考えていることを見透かされることとても弱いようである。
この結論に達した私の考えを主人が否定しないことから、この推測は概ね正しいと思われる。


個人的な考えだが、相手の考えを見透かされていると推測できる相手は
前述のように相手を信用することが重要になってくると思う。
相手を出し抜こうと考えるのではなく、相手の良心を信用すれば
翻って相手の警戒を解くことができるのではないかと思っている。


第一海千山千の妖怪たちと普段から接触していて、自分の心理状態を読まれることを
恐れていてはこの仕事は続かないと思う。
恐れていては態度に現れる。そうなったら確実に少女妖怪に殺されるリスクが増えるだろう。


すると、地霊殿の主人、確かに信用問題もあると前置きした上でこう愚痴っていた。
閻魔様のマシンガントークを聞きながら心を読むのは拷問だと言うのである。
意図を読み取ろうと必死に第三の目を見開くと、話があっち飛びこっち飛びして余計に混乱して
しまうのだそうだ。
閻魔様の普段の言動を思い出し思わず大爆笑してしまった。 


とりあえずそういう人だということで諦めたらどうですかとアドバイスした。
なぜか負けた気がすると言う気持ちはわかるが、閻魔様のような極限クラスのマイウエイを
どうにかしようと考えてはいけないと思う。
あれは別次元の生き物だと思っていたら、それを察した主人が大爆笑していた。