□月 ●日  No852 移民希望


久々にボスがうんうん唸っている。結界の外で不景気になると決まって生活できないから
幻想郷に行きたいと宣う困った妖怪が現れるからだ。
連れて行くのは構わないのだが、やってきて早々不便さでキレてさんざ暴れ回った挙げ句
博麗の巫女にボコボコにされて逆恨みされるケースが後を絶たない。
自称現人神でさえ相当我慢して貰ってる。 今年は特に寒いのだが、割と寒さに強いのか
文句は言ってこないのが幸いである。


私も受付でそういう相談を受けるときがある。
連中が勘違いしているのが、幻想郷は自給自足の農本主義だと思っていることだ。
だからあそこに行けばきっと楽に暮らせると思っているのである。
現実は違う。市場経済が成り立つ経済で成り立っている。 つまり顕界と全く同じなのだ。
これは隙間妖怪が市場経済が崩壊しないように通貨の価値に対して大きくテコ入れしたためだ。
今の幻想郷は実質金本位制である。
そして幻想郷でそこそこの生活になるためには結局それなりに時間が掛るのである。
それは妖怪とて例外ではない。


そこそこ実力がある妖怪なら大道芸で生計を立てることができるだろう。
人形遣いのアリスはまさにその実例だ。また身のこなしに自信があれば、弾幕ごっこ
弾幕の切っ先を見切る「グレイズ」でギャラリーからおひねりを貰うのも悪くないだろう。
妖怪ハンターの中にはグレイズで妖怪退治費用の割り増しを狙っている者もいるくらいだ。
異変を起こす力があれば、即座に幻想郷のシステムに組み入れられるようになる。
安全装置でもあるのだが、異変を起こして宴会にするのは幻想郷で手っ取り早くポジションを
得るためにはとても有効と考えられる。


ではノースキルの妖怪はどうなるのか。
ぶっちゃけ顕界で融資を受けてそれを元手に普通の生活をした方がいいということになる。
妖怪も最近は科学を用いた生活に慣れきっており、生活様式が殆ど普通の人と変らないケースが多い。
酷いケースだと妖怪でありながら路上生活者と同様の生活をする者まで現れた。
時代の流れとは思うのだが、これを幻想郷でやったら確実に餓死するだろう。


ちなみにだが、うちの会社は幻想郷への移民を考えている人への相談は受け付けても実際に
業務を行うのは霊能局でやっている。
自前で移民された自称現人神一味を除けば、小兎姫やら櫻崎やらに頼めば取りあえず問題ない。
あとはあっちで色々やってくれる。あとは霊能局がクライアントになってうちの列車で運びさえすればいい。


ずっと曇った表情のボスと話をしてみた。
うまい棒一本で買収された灼熱妖怪ことお空サンが移民してきた妖怪の代わりに暴れて
岡崎設計ヴィヴィット操縦のコレジャナイカイザーが解決に乗り出したとのことだった。
岡崎が機転を利かせてうまい棒一ダースで話をつけたお陰で事なきを得たそうだ、
買収合戦はさておき、最近の妖怪は移民しても異変を起こすことすら不自由している事実に頭が痛くなった。