ある昼下がり。政府が管轄する機関「霊能局」のとある資料室。
薄暗いこの部屋である重要な映像が再生されようとしていた。
「これが、あの森で起こった一連の出来事を記憶したフィルムというわけか」
そう呟いたのは奥に座っているサングラスを掛けた痩せ顔の妙齢の男。
霊能局に所属するエージェントが苦労して入手したこの映像。
そこには妖怪と月の民と呼ばれる異星人が会合する場面が映し出されているという。
その映像を固唾を呑んで見守る男達。
映像は最初緑を称えた森が映されていた。
そこに間の抜けた音声が飛び込んでくる。
「Heyスティーブ 絶世の美女と噂される綿月豊姫を見に行くぜ」
「OKボブ なんでも凄いバスティらしいぞ。」
「それだけで減点だけどなスティーブ。」
その場で座ったのだろう。
スティーブと言われた男の尻がカメラの前に鎮座して前が全く見えない。
その尻をどかせという野次が周囲から漏れる。
記録映像である以上その願いは叶うこともないのだが。
だがこの状況がとある幸運を呼び寄せた。
画面が真っ白に染まり、ほんの一瞬であるが周囲の映像が飛び込んできた。
そこにあったはずの森はなかった。 文字通り真っ新な大地が広がる。
周囲から感嘆の声が上がった。 何かが起こり森が消滅したということだけはわかった。
この男の尻のお陰でこのカメラは難を逃れた、それが映像を手に入れた者の見解だった。
「ところで今俺たち森にいるんだよな。」
「なんで俺たちの周りに何もなくなっているんだがボブ。」
「豊姫がなんか技を繰り出したみたいだけどな。だけど何で俺たち無事なんだスティーブ。」
「そりゃ俺たちはエンペラーだから穢れていないのさボブ。」
二人の会話はあちらこちらで意味不明だったが、それでも先の見解を裏付けるには十分だった。
月人は森を一瞬で消滅させることができる武器を持っている。
それは霊能局の面々を震撼させた。
だがそれほどの武器の脅威に晒されていながら、会話している二人の会話に変化は見られない。
二人は無事であり、特に怪我をしていないようだった。
それが霊能局の面々を混乱させた。
妙齢の男は口を開いた。
この二人の行動原理を細かく分析すれば、月の民に対抗できるに違いない。
それが霊能局の下した結論であった。